ふたたび

臓器移植法改正案、国会審議へ…13日に参考人質疑

 国会に提案中の臓器移植法改正案について、衆院厚生労働委員会は、今国会会期中の審議入りを決めた。
29日の同委員会理事会で与野党が合意した。来月13日に参考人質疑を開き、専門家の意見を聴取する。
脳死臓器移植は、法が施行された1997年以降、9年間で49例にとどまっている。改正案は臓器提供の機会拡大を目指しており、家族が同意すれば本人の意思が不明でも提供が可能になる「家族同意案」と、提供者の年齢を現行の15歳以上から12歳以上に引き下げる「年齢緩和案」の2案が提案されている。
(2006年 11月29日 付YOMIURI ONLINE転載)

えっと、臓器移植法改正が俎上に上がっています。政治について詳しくないので改正が成立するかどうかはわかりませんが、あえてまた取り上げてみたいと思います。
脳死というのは心臓が動いてて、体は暖かく、脈もあり、少なくとも素人目には死んでいるとは思えないのですが、もとにもどることがありません。ですからそこから新鮮な臓器を取り出して移植に役立てようという発想が臓器移植法にはあります。1997年に成立してずっとやってきたのですが、実は現行法の問題は、子供の脳死移植です。脳死での臓器提供には書面による本人の意思表示に加えて家族の承諾が必要という、厳格な要件が課されています。15歳未満の臓器提供はダメで、小児の移植がほとんどできないことも日本だけの制限で、海外に行かないと確かに移植が受けられない、という難点があります。東京の西部だと子供の海外での心臓移植についての募金活動が盛んで、それに応じてか、マスコミの論調もじつは子供に対して心臓移植ができないのは国家として怠慢ではないか、みたいな論調がありました。


脳死状態からの動いてる心臓摘出ということだけ抽出すれば、それは究極的には生命を奪うことに他ならないのですが他方助かる命があるのはこれもまた事実です。脳死状態になれば回復可能性が無いわけで、ただただ無為に何もしないよりは確かに救える命があるのなら、というのは良く分かる話ではあるのです。もし仮に本人が提供の意思をしているのならばそれは他人が制止するべきでは確かになさそうな気がします。
しかし、人間というのは果たして個人だけで生きてるわけではなく、社会的存在や家族関係等他人との交わりが有って成立してる側面が有ります。個人的には、生物資源的視点から臓器移植の緩和を求めるというのは、私は好ましいことでは無い気がしてしてならず、また、なぜ脳死患者だけがそのような扱いを受けるのか(植物状態では心臓摘出は不可能です)、生命の価値に幾許かの差をつけてることへの反感があります。私は本人の意思が不明確でも家族が良いといえば提供が可能という改正案にはかなりの違和感を拭えませんし、また言葉の問題なのですが、仮に臓器移植の申し出があったとしてそのような志を無にしてはいけないと思いつつ(わざと善意という言葉を使ってません)それが臓器を提供しないものがまるで悪人かのように、さもあたりまえのように臓器を提供しなければならない風潮になることを多少危惧しています。当然「臓器提供」は人の役に立つ行為には違いないのですが、人の役にたつこと≒それが善という価値観があまりにも強調されるとまずいとおもうのです。 ここから先かなり感情論になりますがそもそも脳死を認めない人がそれなりに厳然と日本には存在してて、もちろん現行法でも改正法でも家族等が臓器摘出をキーパーソンとなって拒否をできるようにはなっていますが、救える命が有るのなら、という、厳然とある事実をつきつけられたとき、家族が生死をさまよってるときにはたしてどれほど冷静に摘出患者の家族が臓器移植に対して判断が可能ででしょうか。すくなくとも現行法の本人の意思表示を前提にし、かつ、家族の許諾が必要という厳格な要件は死守すべきではないのかな、とは思うのです。
また、現行法はかなり自己決定という側面を重視して成立したと思われるのですが、改正法では本人の意思表示がわからなくとも家族の代諾でよいという案は、本人の自己決定なんざはなから気にしてない、ちと時代に逆行しているもののような気がします。かなりの長期にわたり患者の自己決定権をこの国において確立しようとせめぎあいがあったのですが、ほぼそのことは考慮はされてません。なんのことはない、単に、臓器を移植して欲しい側の意見はかなり反映されている気がするのですが、きわめて弱い立場に置かれる可能性の高い脳死患者に対しての配慮が欠けてる気がしてなりません。元にもどることない、脳死患者にはそれほどの価値はないのでしょうか。


また、年齢引き下げについてですが、移植を待つ人々の心情は十分理解できるものの、例えば中学生の年齢で生と死を深く考え、自らの意思を決定できるか、というと多少疑問だと思うのです。実質は臓器摘出の許諾≒脳死を認めることなのですが、死生観や自己決定について知識に欠けるところがないとはいえない世代を、成年した大人と同じに扱うことはどこか酷であり、その意思表示をしたとしてもその意思を認めるべきではないのではないかと、おもうのです(また非常に云いずらいですが罰則規定が既にありますが、子供の臓器の売買についての可能性も、念頭においておく必要があるのではないかと思うのです)。



改正法の成立を急ぐことなく、もう少し時間をかけて冷静な議論が必要なのではないかと私などはおもうのですが。


臓器の移植に関する法律(抜粋)

(基本的理念)

第二条  死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。

2項  移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。

3項  臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行われなければならない。

(定義)

第五条  この法律において「臓器」とは、人の心臓、肺、肝臓、腎臓その他厚生労働省令で定める内臓及び眼球をいう。

(臓器の摘出)

第六条  医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。

2項  前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。

3項  臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができる。

4項  臓器の摘出に係る第二項の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生労働省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行われるものとする。

以前とまた同じことを書きますが、六条を見てほしいのですが、脳死したものの身体ってあるのですが、そもそも身体というのは生きてることを前提にしてるのです。で、脳死の患者は生きてる身体であるそれを死体として同列に扱いますよ、ということにして、ややこしいんですけども、この六条を根拠に脳死判定と臓器摘出を、脳死状態の生きている身体?に対して行っています。
この条文のおかげで脳死を一律に人の死とせず、臓器を提供するかどうかは家族の留保をつけて患者の自己決定権によることを現行法は間接的に示しています。
で、以下のように改正しようって考えてるわけです。二つあります。法案が。



第六条第一項を次のように改める。

  医師は、次の各号のいずれかに該当する場合には、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。

 一 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないとき。

 二 死亡した者が生存中に当該臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であって、遺族が当該臓器の摘出について書面により承諾しているとき。

 第六条第二項中「その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって」を削り、「もの」を「者」に改め、同条第三項を次のように改める。

3 臓器の摘出に係る前項の判定は、次の各号のいずれかに該当する場合に限り、行うことができる。

 一 当該者が第一項第一号に規定する意思を書面により表示している場合であり、かつ、当該者が前項の判定に従う意思がないことを表示している場合以外の場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないとき。

 二 当該者が第一項第一号に規定する意思を書面により表示している場合及び当該意思がないことを表示している場合以外の場合であり、かつ、当該者が前項の判定に従う意思がないことを表示している場合以外の場合であって、その者の家族が当該判定を行うことを書面により承諾しているとき。

 第六条の次に次の一条を加える。

 (親族への優先提供の意思表示)

第六条の二 移植術に使用されるための臓器を死亡した後に提供する意思を書面により表示している者又は表示しようとする者は、その意思の表示に併せて、親族に対し当該臓器を優先的に提供する意思を書面により表示することができる。

臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律案

 臓器の移植に関する法律(平成九年法律第百四号)の一部を次のように改正する。

 第六条第一項中「場合」の下に「(当該意思の表示が十二歳に達した日後においてなされた場合に限る。)」を加え、同条の次に次の一条を加える。

 (親族への優先提供の意思表示)

第六条の二 移植術に使用されるための臓器を死亡した後に提供する意思を書面により表示している者又は表示しようとする者(十二歳に達した日後において当該意思を表示した者又は表示しようとする者に限る。)は、その意思の表示に併せて、親族に対し当該臓器を優先的に提供する意思を書面により表示することができる。

家族の留保はつけたものの、本人の意思がなくてもなんとか臓器移植をしようっていう方向にすすめてます。
で、もう一方は、年齢引き下げです。