嫡出子・非嫡出子の相続分の差異

現在の日本では両性の合意があり、市役所等に婚姻届を提出した2人の婚姻形態を法律婚とよびます。法律婚じゃない場合は事実婚とよばれたりします。嫡出子という言葉があって、婚姻関係のある男女の間に生まれた子のことを指します。対して非嫡出子ともいうのですが婚外子という婚姻関係に無いの男女間に生まれた子供の呼び名があったりします。
現行の民法では相続において法定相続分が非嫡出子は嫡出子の半分になる900条の規定があります。同じ父親であっても母が法律婚の配偶者である場合とそうでない場合では、法定相続分に差異がありました。被相続人が財産を形成するうえで、一方の配偶者や嫡出子の支えというのがあってなりたつ場合を考えると納得はゆくのですが、以前から批判のある条文で、いちばんでかいのは憲法が求める「法の下の平等」に反するのではないか、という点です。なんべんか「違憲ではないか」という訴訟が起こされてます。最近の判断では

「本件規定の立法理由は、法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに、他方、被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡出子の二分の一の法定相続分を認めることにより、非嫡出子を保護しようとしたものであり、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解され」「民法法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解され」「本規定には合理的な根拠がある」

という理由で平成7年には(差異があったとしても)違憲ではない(最大決H7・7・5)という判断が下されてはいます。がしかし15人で審議する大法廷のうち5人が反対意見を述べていてました。平成7年のあとにも訴訟は何回かあり、今年になってからは最高裁が弁論を開くことを決めてます。最高裁が大法廷で弁論を行うのはそれまでの判例を見直すときが多いので、平成7年とは違う判決が出る可能性は予測されていたのですが今日の午後に判決があり、現行の民法では相続において法定相続分が非嫡子は嫡出子の半分になる規定が違憲である旨の判断が下りました。生まれてくることもは親を選べず子供に罪はないし親の婚姻という形式の有無で半分になるのはどうか、というのはいちおう理解できます。
ところで非嫡出子と嫡出子の差は、婚姻関係の有無に関係してきます。法律婚の尊重というのは民法は婚姻法などをみてるとなんとなくわかるのですが、憲法上はどうかというと怪しいところがあります

憲法24条
1.婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない

条文を読んでいただけるとわかるのですが、平成7年の段階では法律婚尊重を打ち出してるものの、しかしそもそも婚姻の自由につき憲法24条は両性の意思の合致・合意を必要としてることは定めてますが、手続きしろとまでは規定しておらず、法律婚がそもそも尊重されるというのは少なくとも憲法の条文上は読み取れません。そのせいかどうかはわからぬものの、事実婚状態であっても健康保険は被扶養者としてとらえ緩やかに対応していたりします。もちろん適法な婚姻に基づく家族関係を保護するという明確ではないけどそれとなく誘導してる現行民法の婚姻法分野の立法の目的それ自体は、憲法24条の配偶者の保護の趣旨にはあうし配偶者の保護は尊重されるべきなのですがあくまでも配偶者の話であって、配偶者に法定相続分の半分が配分されてることを考えると嫡出子と非嫡出子との相続分を同等としても、なんらの影響を受けるものでなかったりします。ちゃんと判決要旨を読んでない段階でへたなことはいえませんが、やはり平成7年の判決は憲法には書いてはないけど実質法律婚重視の相続の現状を守るためにどこか無理があったよな、と思ってます。
おそらく今日の判決を踏まえて、嫡出子・非嫡出子の相続分に差異があることにつき、是正がされてゆくものと思われます。
ただ、くりかえしになりますが被相続人が財産を形成するうえで、一方の配偶者や嫡出子の支えというのがあってなりたつ場合もありえます。そこでその相続財産を嫡出子と非嫡出子で差をつけないとした場合、財産を形成した集団である家族の範囲外に平等に分割することが妥当かどうか、というと果たしてどうなのだろうか、というのがちょっとあります。もちろん、戸籍上の配偶者や嫡出子とは同居せずに婚姻関係に無い男女が共同生活をおくりその配偶者以外のパートナーや非嫡出子が被相続人の相続財産の形成に寄与してることもあり得るので(民法には被相続人の相続財産の形成に貢献した相続人のために寄与分という制度があるものの婚姻関係外のパートナーはそれが主張できない不具合もある)、そこらへん考慮するとなんともいえなくなっちまうので、違憲判決を踏まえて民法を変える場合は、充分に配慮する必要があるはずです。国会もしくは法制審議会の行方が気になるところです。また法改正において別のちょっと厄介な問題として、家族の在りかたがどうあるべきか、ということによって左右されちまうところがあります。法律婚≒特定のひとりのパートナ以外とまた別の家庭を持つ、ということに関して許容できるかということなのですが、でもこれは生まれてくる子には関係のないことでもあったりします。

以下、どうでもいいことなのですが、個人的には「法の下の平等」というのはどこまでつきつめられるべきものなのか、というのはここ数年ずっと気にかかってるテーマで、でもってここで必ずしも現状追認的な法の下の平等とは決別する方向に舵を切りつつあるのかな、という印象があります。ちょっと時代が動きつつあるのかもしれません。

【若干の追記】
判例変更の大きな理由の一つとして「婚姻、家族の在り方に対する国民意識の多様化が大きく進んだ」というのがあるんだけど、実際、日経を読む限り法律婚ではないカップルの子というのの増加、というのはあるようで、なるほどなあと思います。
婚姻の在りかたについて言えば、最高裁が有責配偶者からの離婚請求を昭和の終わりに認めたことがありました。以前は有責配偶者からの離婚請求というのを認めませんでした。ひらたくいうと浮気されたほうがかわいそうなので浮気したほうから離婚請求をしても、裁判所は突っぱねてたのです。それがひっくり返ったのが昭和62年で、有責配偶者からの離婚請求を認め・一定期間の別居などの条件があれば基本的に浮気したほうからの離婚請求を認めていて一定のパートナーひとりにずっと結び付けておくべき、という発想を言外に放棄してます。ここでそれをさらに進めて、婚姻や家族の在りかたの多様化に対応し、嫡出子(法律婚の子)と法律婚以外の事実婚状態の子の相続分との格差をなくすことで、事実上憲法には書いてないけど民法が間接的に誘導していた「法律婚の優遇」というのをある程度崩して、時代に対応したほうが、ということなのかもしれません。