松坂屋京都店のコレクション

サントリー美術館松坂屋京都店(松坂屋は京都に売り場のある店を構えていませんが室町に仕入れ拠点があるのです)が収集した小袖ほか着物と和装小物のコレクションを展示してて、先月行ってました。
扇やタチアオイといった花なんかをあしらったものもありましたが、同じ花でもかきつばたのがあったのですが、それは謡曲伊勢物語を知ってないとわからないであろう、三河の八橋で在原業平が美しくさくかきつばたを見て京に残した妻を偲んで詠んだ「唐衣きつつなれにし妻しあればはるばる来ぬる旅をしぞ思う」にひっかけた小袖でした。別にそのうたを知らなくても着物自体はかきつばたがあしらってあってかなりきれいで目をひくのですが、ちゃんと図柄に八橋も入ってて(これがまたさりげなく入ってて邪魔にならない)見る人が見れば「ああこれは業平のうたにひっかけてあるんだな」というのがわかるという、なくても全然かまわない様な無駄な教養を持つ人たちの中でしかわからないであろう、判る人だけほんとの価値というか意味が判ってくれればいいっていう、ものっそ凝って贅沢な小袖なわけです。どうでもいいですけど、かきつばたの柄ですから季節もののはずで、いつも着れるものではないでしょう。注文者は四季にあわせて同じくらいのセンスの別のものを誂えててもおかしくないはずで、京の着倒れっていう言葉が具体的に想像できました。
かきつばただけじゃなくて業平にひっかけて八橋も、とかの注文者のその無駄とも思える教養を入れ込んだ発案と、その注文に応じる呉服商と職人の意地が当時の服飾の意匠のセンスを高め、いまの服飾文化につながるのかな、ってのが良く判る展覧会でした。また、こういうコレクションがあるってことは松坂屋という会社はかなり目が肥えてる人がいるのだろうな、ってのも判りました。

それらを観にいって個人的にはけっこう面白かったのだけど、でも、誰もがそれほど面白がるってわけじゃないんだな、ってのも茶を飲みながら感想を聞いたらなんとなく判明。
同じものをみてもおもしろいかどうかの価値っていうのはたぶん見た人の脳内へ入って以降に発生するんすよ。面白さが発生する場所って脳内なのかな、と。養老先生のご高説を思い出しました。