日曜に茨城の牛久というところに寄っていました。牛久にバカでかい大仏と牛久シャトーというワイン醸造所跡があって、どちらを見たいか?と問われて後者にしています。ほんとにそんなものがあるの?と半信半疑だったものの現地へ着くとちゃんとありました。
牛久シャトーは神谷伝兵衛という実業家が明治期に建てた醸造所跡で、木造レンガ積みで地上2階地下1階の三層構造です。2階に鉄の扉とおぼしきものがあってあれはなんだろうと初見時には不思議だったのですがいまはそれは横に置いておくとして。この建物、きわめて合理的にできていて
収穫されたブドウは(いまは機械展示室になっていますが)2階に運び込まれそこでブドウ果汁を作り、床を貫通させた窓からそのブドウ果汁を重力の力で1階へじゃばあと流し
流れてきたブドウ果汁を1階に置いた樽で受け、樽内で発酵させる仕組みです。いまは樽が展示されてるだけですが
場所によっては2階からうっすらと光が差し込むところがあり、あああそこからブドウ果汁を流していたのだな、と想像しました。些細なことを書くと柱が上向きに木の枝状になっていてそれを方杖と呼ぶのですが、和建築では十中八九まず見ません。フランスのボルドーの醸造所を真似ている説明があったのですがほんと西洋の技術をダイレクトに反映させているといえるはずです。
洋建築ついでに書いておくと鉄骨で補強はされているものの木造のトラスが露出していて(この木造トラス構造を採用したおかげで柱がない広い空間が出来ていて)、こういうのは飽きないのでつい見惚れてしまっています。館内には当時の道具類がそのまま残されていて
人力ではあるものの専用の小型起重機があり、説明を読むと「あの鉄扉はなんだろう?」と気にしていた鉄の扉を開けて、大量のブドウ生果をそこから搬入していたようで。大量のブドウを2階に運ぶの大変じゃね?などと勝手に心配していたのですがどうも杞憂だったようで。
牛久シャトーで作っていたのが蜂ブドー酒で、いわゆる甘味ブドウ酒、つまるところ甘いブドウ酒です。いまでも後身の合同酒精がハチブドー酒の名で甘味ブドウ酒を販売しています。看板にうっすらと美味滋養の文字が浮き出ていますが、他社を含め甘味ブドウ酒は身体によいという触れ込みで販売していた時期があります。
事務棟も現存しています。内部は非公開なのでわかりませんが、外壁はレンガ積みで、鉄板の瓦を葺いています。なぜか左右非対称で時計台が若干右寄り、真ん中には醸造所へ向かう通路が設けられているほか、その通路の上には蜂とブドウが描かれています。つまるところ、上品な自社の広告です。
ところがその事務棟のドアの上にあるのが(おそらく)漆喰の鏝絵でそれが
どういうわけかブドウにトンボです。職人が注文を間違えた?とか想像が膨らむのですが、意図は謎です。謎が出来ちまうのは工業製品ではない建築の素敵で困ったところではあるのですが。
合理的な西洋の技術を移入しつつある時期の貴重な建物で、見学していてよくぞ残しておいてくれた感がありました。でもって大仏さんには申し訳ないと思いつつ、仏様の世界より人間が作ったもののほうがやはり面白いよな…って、無礼なことを書いてる気がするのでこのへんで。