暗がりの中で

あまりかっこいい話ではないのですが、高い席で歌舞伎というのは見たことがありません。一幕見の席が1000円程度で、そっちが主流で、それ以外の席は数えるほどです。歌舞伎では雪が降るときに太鼓の音が鳴るんすけど予備知識があまりないまま入っていった道なので、そういうお約束をどんどん安い席で学習してゆきました。
実は大向こうというプロの観客の人が幕見には陣取ってるのですが、この人たちはこれは、というところで必ず「播磨屋!」とか「音羽屋!」と掛け声をかけるのですけど、これがまた絶妙な間で声をかけるのです(見た目普通のおじさんがとなりでそんなふうに声を出してたから最初はほんとにびっくりした)。もちろん役者に対して大向こうじゃないところからも声がかかることがあるのですが、大向こうの人たちのほうが野暮じゃないというか、間のとりかたがいいのです。それに気がついてからああこれは歌舞伎も息遣いとか間とか、そういうのが大事なんだろな、と思って注意して見るようになったんすが。でもってそこに注意する・しないで、違ってくるんすよ、なんだか。
暗がりの中で壁に背をつけながら真剣にそんなことをやってたわけっす。そんなふうに手さぐりでずっと理解を深めてったんすけど。