『ぼっち・ざ・ろっく!外伝廣井きくり深酒日誌3』(原案はじまあき・マンガくみちょう・芳文社・2024)は一昨年にアニメ化された『ぼっち・ざ・ろっく!』に出て来た脇役である廣井きくりさんに焦点を当てたスピンアウト作品で、本家である『ぼっち・ざ・ろっく!』を未履修でもそれなりに読めます。面白かったです!で済ますのがもったいないのでいくらか書きます。いましばらくお付き合いください。
幾ばくかのネタバレをお許しください。
廣井さんは自称陰キャですがベーシストとしての腕は確かで(18話)、所属するバンドはそこそこ人気がありますし後輩からもそこそこ慕われています(1巻1話および5話)。本書でもその基本的なところは変わらずで、しかし、タダ酒が飲めると考え元旦にはバンドのメンバーの志麻さんの実家の寺へ押しかける程度には相変わらず意地汚いところがあり、くわえて、他家の墓前に供えられてる酒を狙う程度には酒クズです(17話)。それでもメンバーである志麻さんやイライザが廣井さんを見放さないのは楽しく音楽が出来るようにとメンバーの前で仏前で願う(17話)程度には音楽については邪心がなく信用できるからだと思われます。
もう幾ばくかのネタバレをご容赦ください。
2月14日、廣井さんの先輩にあたる伊地知星歌の経営する下北沢のライブハウスで、星歌の妹である虹夏が作った星歌あてのチョコレートが消えます(21話)。後藤ひとりことぼっちちゃん他多くの関係者がいる中でいちばん最初に疑われるのが案の定廣井さんで、酔っぱらっていたゆえに記憶がなく、星歌さんの証言するチョコのラッピングの特徴に限りなくそっくりなものがポケットにあることに廣井さんは犯行の自覚はないけど気が付きます。そこに虹夏ちゃんが学校帰りに顔を出し、不粋なことを書くと偽装工作までしようとした廣井さんは根っからの悪人になり切れず自覚はなくとも状況証拠から自責の念にかられてしまい虹夏ちゃんが席を外した場面で犯人として名乗り出ます。事の真相はどうであったか?は本書のキモだと思うので是非本作をご覧いただくとして、21話においては、状況証拠から犯人を推理する危うさはもちろんのこと、誰もが廣井さんについてクズとかダメ人間という印象を持つと思われるのですがその事前にこびりついた印象がぬぐえない怖さと、そもそもクズとかダメ人間っていったいなんなのか?ほんとに廣井さんをクズとかダメ人間って云い切ってよいのか?…と、いくらか考え込んでしまうようなけっこう考えさせられる内容を笑いの要素を踏まえつつフィクションに巧く載せていました。本書では21話がダントツに出色です。
さて22話は廣井さんのいるバンドに後輩たちが訪ねて巧くなるために教えを乞う場面があります。そこで打楽器は正確に叩くことだけではないこと、弦楽器もテクニックだけではないことなどが触れられていて、バンドはやったことはありませんが楽器経験者からすると読んでいて腑に落ちることが書いてあって、ああこの作品はやはり音楽が主題なんだな、と改めて思わされました…って、なんだか月並みな感想しかかけそうにないのでこのへんで。