先日発売された『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』(鴨志田一・電撃文庫・2024)を読みました。なお本作がシリーズ最終章になります。
映画化済の『ランドセルガール』から『サンタクロース』までここ何作かは霧島透子という姿を見せない正体不明のミュージシャンが物語の進行に関係していて、そして主人公の梓川咲太は(ここらへん『ランドセルガール』に詳しいのですが)咲太自身にとって居心地の良いもうひとつの可能性の世界の梓川咲太から
「霧島透子を探せ」
「(桜島先輩=)麻衣さんが危ない」
という不穏なメッセージを貰っています(『ナイチンゲール』)。それらの断片的な情報から(ヒロインである)桜島先輩を危機から守る自主的なミッションが朔太にはあったのですが前前作『サンタクロース』でも結果的に霧島透子の正体はつかめずにいました。前作『ガールフレンド』では霧島透子の実像が明かになりつつも一度は解離性障害を克服したはずの妹の「かえで」が出現するなど朔太の周囲に異変が生じ(『ガールフレンド』P64)、それが継続した状態で本作『ディアフレンド』につながります。
霧島透子の正体や桜島先輩やかえでちゃんがどうなったか?について(幾ばくかの不粋なネタバレになってしまうのですが事態は見事に解決するのですが)その詳細については咲太がどのように事態を可決したか?と同じくらい本作のキモに思え、アクセス数を稼ぎたいわけではないのでここに書くわけにはいかなくて、詳細は本作をお読みください、としか書けません。そして頭の悪い言葉でざっくりとしたあらすじを書くと、難解な二次関数の問題についての解答と解説を眺めてるときのような「あ、なるほど…」と唸りたくなるような文句のつけどころのない解き方を咲太はします。
以下、核心ではないはずの方向のことをいくつか書きます。
ひとつめ。AがBであると信じ、かつ、AもBであると認識しているとき、実はAがBではないことを証明する場合、仮にAがBであることが正しかったら矛盾が生じるようなものをぶつけることがあります。仕事で先方の論理破綻を証明するために似たようなことをしたことがあるのですが、本作でもAがBで正しいのなら絶対云わぬような矛盾を生じるようなものを複数人でぶつけていました(P38およびP39)。小説にこういう感想を書くのはおかしいかもしれませんがそこらへん証明にもちょっと似てるな…などと思っちまっています。そしてその記述を曖昧にしても物語は進みそうなのにそうはしないところに作者の職人気質的なものが垣間見えて唸らされています。
ふたつめ。第一作から繰り返し繰り返し出てくるのが「人は見たいようにしかものを見ない」という主題で、本作でもやはり出てきます。とどめを刺すように
「子供の頃、天井の模様がお化けに見えたりしなかった?」
「…」
一体、麻衣は何を言おうとしてるのだろうか。やはり、それがわからない。
「だけど、成長するにつれて、それがただの模様にしか見えなくなって」
「あったよ、僕の場合、紙の長い女の人の顔に見えて、夜寝るときに、そっちのほうを見ないようにしてた。いつの間にか、気にならなくなってたけど」
「そうやって、いつかは子供の頃のかわいい思い出に変わるものでしょう?」
(P105)
記憶と思い出と名付けられるものを含め、ものの見方に関する変化についても触れられています。個人的なことを書くと以前は気になっていたものがそのうち気にならなくなることもあった経験はあって=読んでるこちらに引っかかるものがあって、ここらへん読んでいてシビレています。不粋なネタバレを書くとこの桜島先輩の天井のお化けのくだりが咲太に前に進む判断をさせるのですが、シリーズを通して登場人物が自ら判断しておのれを変えてゆこうとするところは本作でも健在で、人には可塑性があると信じてる方からするとその点も好ましかったりします。
みっつめ。シリーズ通して藤沢が舞台で江ノ電がちょくちょく出てくるのですが本作でも出て来てきます。それが登場人物を別の世界への移動へと誘う描写に付随してて、ひどく印象に残りました。いっぺん本作と同じ藤沢発22時50分の電車に乗ってみたい欲がでてきています。
以下、くらだないことを。
青ブタはアニメで偶然知り引き込まれ、そしてはじめてちゃんと読んだライトノベルズで、かつ、物語の海に沈みこむのが毎回とても楽しみでそして快感でした。時間を返せと騒ぎたくなるような変な終わり方じゃなくてよかったというか、途中から文体が変わったかな感もあったもののキレイに終わってくれてちょっとホッとしています。
ただ文庫の最後の最後に青ブタの映画の監督が古賀さんや花楓ちゃんや桜島先輩の妹ののどかがどうなるのか知りたいという趣旨のことを書いていて「ああ確かに!」となり、特に古賀さんに私は抉られてるので続きがあるなら読んでみたいかな…感はあったり。出会えないことは彼らに異変が起きぬことなのでよいことのはずなので、その期待はなんだか人としてどうよ?とは思うのですが。
読めてよかった作品のひとつなのですが、いかんせん、ラノベの感想とかの書き方がよくわかってないのでこのへんで。