クズについて(もしくは『ぼっち・ざ・ろっく!外伝廣井きくり深酒日誌1』を読んで)

『ぼっち・ざ・ろっく!外伝廣井きくり深酒日誌1』(原案はじまあき・マンガくみちょう・芳文社・2024)は数年前に放映されたアニメの『ぼっち・ざ・ろっく!』に出て来た廣井きくりさんに焦点を当てたスピンアウト作品で、『ぼっち・ざ・ろっく!』を未視聴未履修でもそれなりに読めます。面白かったです!で済ますのがもったいないのでいくらか書きます。いましばらくお付き合いください。

いつものように幾ばくかのネタバレをお許しください。バンドでベースとヴォーカルを担当する本作の主人公廣井きくりは第一話では横浜でライブをしていたにもかかわらず打ち上げ後に目が覚めると終電後の金沢八景で、そこから物語がはじまります。もう幾ばくかのネタバレをお許し願いたいのですが廣井さんはテクニックはあるし歌唱力もあるものの題名にもあるようによくいえば深酒気味、悪く云えば本作の中の言葉を借りれば「どうしようもない酒クズ」です。終電後の深夜の金沢八景でどうしたかはキモだと思うので是非本作をお読みいただくとして。

主人公である廣井さんは「クズ」のひとことでは言い表せない部分があります。本作では廣井さんが感心したように同性の胸が大きいことを触りながら褒める描写があり、つまるところ「どうしようもない酒クズ」どころかおとなとしてはいくらか常識外れです。ただ最初から最後まで泥酔時も素面のときも建前論などを含め裏表が一切ありません。なので触られたほうもセクハラと注意しつつも突き放さず、金がないことや風呂に入ってないことを正直に云われれば周囲は呆れつつもそれは素麺を喰わせたり風呂を貸したり…と、廣井さんを許容します。裏表のない廣井さんを眺めていると脳内のクズ像が崩れてしまい「裏表のないクズはクズといっていいのだろうか?」とか「クズとはいったいなんなのか?」とか瑣末的でありながらも根源的な疑問を抱くに至っています。本作は人としてダメなことってなんなのか?についていくらか考えさせられる怪作です。

以下、くだらないことを。

本作では廣井さんは現実に感じているしんどさを遮断するために酒(おそらく日本盛の鬼ころし)をあおります。私はしんどさを感じたときにはそのしんどさを遮断するために料理のことを考えたり物理的に可能なら交響曲を聴いたり小説を読んだりします。ので、読んでいて偶然鬼ころしを手にしなかっただけという意識が強く、妙に親近感を覚えていました。むしろ裏表があるゆえに私のほうがクズかもしれません。そんなのが距離を置いて本作を冷静に読めるか?というと怪しいところがあります…って、どうしてそんな大事なことを末尾に書くのか、と怒られそうなのでこのへんで。

なお外伝ではないほうを視聴したときの感想はこちら↓です。

gustav5.hatenablog.com