「その着せ替え人形は恋をする」12話を視聴して

「着せ恋」の最終話12話を録画して視聴しました。アニメに決して詳しくないおっさんがいちいち感想を書くことにどれほどの意味があるかわからないのですが、なにも書かずに過ごすのは惜しいので書きます。

いつものようにいくばくかのネタバレをお許しください。いままでコスプレをしたい喜多川さんと裁縫が出来る五条くんという書き方をしていましたが、12話はコスプレはほぼ関係なく高校生の夏休みの生活の一部を丹念に描写しています。

詳細はアニメをご覧いただくとして、夏休みのあいだに五条くんと喜多川さんは県内の花火大会へ行くことになります。五条くんのおじいちゃんはそれをにこやかに送り出します。(1話の段階では)友だちがいないのではないかと心配していた孫が誰かと花火大会へ行く日が来たのがおそらく嬉しいからのはずです。些細なことなのですが「着せ恋」を単なるラブコメにせず、家族愛の表出のその場面を入れたことに唸っています。

そして当該花火大会には英訳My Dress-up Darlingのdress upがしっくりくるくらいの浴衣姿で喜多川さんは現れます。その浴衣は濡羽か呂色かともかく艶っぽい黒地に月白や白鼠などで葉や花弁をあしらい帯は(5話までのしずくたんのイメージカラーの)紫で、それらが明るい髪質に似合っていてセットした髪と露わになったうなじを含め、五条くんはガン見します。1話でコスは推しへの究極の愛と喜多川さんは語っていて意図があって着る服は喜多川さんにとって意思表示の側面があるはずで、花火大会へ行くにあたってのその浴衣姿も五条くんへ着飾った良いところを見せたいという喜多川さんの意図のはずです。対して五条くんは(9話で心寿ちゃんだけには明かしたのですが)喜多川さんに憧れつつもそれを胸に秘めてるせいか普段着の甚平で、着ているもののその対比がそれぞれの性格を表してるようで妙に印象に残りました。と、同時に、喜多川さんが五条くんを振り向かせてその気にさせるのこの先も苦労しそうだな…という気が。原作を読んでないので杞憂ならいいのですが。

肝心の花火は(いままでも料理の描写など異様に手を抜いてなかったのですが料理以上に手を抜くことなく)極めて見応えのあるものになっています。その花火の映像に付随しての、喜多川さんと行動するようになったことで未知のことを体験するようになり、現に火薬や花火の煙の匂いや音などを知識としては知っていたけどどんなものかをはじめて知った五条くんの独白が、やはり最終話のいちばんキモかもしれません。「着せ恋」は喜多川さんや乾さんや心寿ちゃんの変身譚の物語でもあるのですが、喜多川さんに引き摺られて視野を拡げて変化する五条くんの物語でもあったわけで。途中から花火ではなく横に居る喜多川さんを見つめだした五条くんを眺めてて「五条くんが喜多川さんに憧れるのも無理ないよな…」などと思ってたのですが、ブルーハワイを食べた喜多川さんが舌を「べ」と出すところで、五条くん(と視聴してるこちらの)の感傷的な時間は粉砕されてしまうのですけれど。

12話の題名そのものが「その着せ替え人形は恋をする」で、詳細はアニメをご覧いただくとして題名にふさわしい終わり方をします。最終回も最後まで飽きることなく視聴しました。

以下くだらないことを。

制作しているのが青ブタを作った会社で、それでこの作品を知り視聴しはじめたのですが、実は2話(個人的にセクハラっぽく感じた採寸シーン)あたりで続けて視聴するかかなり迷ったものの、話の構成と声優さんが巧かった、というのがあって、なんとか最終話まで視聴しています。喜多川さんは1話でコスは推しへの究極の愛と語り、8話ではジュジュ様=乾さんは推し=魔法少女になるための自己実現であったことを語ります。恥ずかしながら服についてはそこまでのことを考えたことがなく、(セクシャルマイノリティでもあるので)服は関心の矛先が私自身に向かないための目くらましにもなるよな…程度に思っていたので、喜多川さんやジュジュ様の視点が目からウロコで、興味深かったです。

また、服が着ている人のテンションを上げたりすることや(10話)、特定の分野に詳しくなると他人に攻撃的敵対的態度をとってしまいがちになること(6話)、耳からの情報で人は想像力を掻き立てられてしまうこと(1話)、など、ひょっとしたら誰もが体験した可能性のあることを基に話が組み立てられてるような気がしてならず、主要な登場人物4人が高校生にもかかわらず妙に親近感があったことを告白します(それはこれをかいてるやつの未熟さの証明でもあるのですが)。

今冬、ちょっとキツくて忙しかったのですが、その中でも「着せ恋」を視聴してる間は忙しさを忘れることが出来たのは零れ幸いでした。そのうち時間が出来たら原作に手をのばしちまうかも。