岩槻人形博物館へ

埼玉に岩槻という街があります。以前は岩槻市といったのですがいまはさいたま市岩槻区になりました。ずっと名前だけは知ってて、しかし縁はまったくありません。ここのところ視聴しているものが岩槻が舞台で、失礼を承知で書くと少なくとも「人が多そうなところ」では無いだろうと考え、雨がやんだのを奇貨として足を伸ばして岩槻へ。

岩槻は人形の産地であちこちにわりと大きめの人形店があります。

ひな人形に縁がなかったにもかかわらず(唇の両端を引っ張りながら云った)「いー顔のトウギョク」というCMをうっすら覚えてるのですが、たぶんそのトウギョクも岩槻にありました。

岩槻には人形と人形関連にほぼ特化した人形博物館があります。最初は「ひな人形が飾られてるのかな?」的な軽い気持ちで入ったのですが、ひな人形製作からの脱却し装飾品としての人形制作への苦闘を知り、(実際に日展などで戦後になってから人形が飾られるようになるのですけど)芸術に高めようと努めた人形師の作品などが並べられてて、途中から嘗め回すように見学しています。わたしのような人形に疎いシロウトでもけっこう見応えのある美術館です。

これからくだらないことを書きます。

館内に岡本玉水という人形師の作品の「紅絵売り」というのがあって、遊女などの絵を売った江戸期の絵が基になってると思われる旨の解説があったのですけど、その人形(どちらかというと美少年)が背負ってる箱の上には𠮷原の三浦屋の紅格子や暖簾が再現され、人形には岩井半四郎といった役者の名前や中村屋音羽屋といった屋号と紋の入った提灯の絵柄の着物が着せられ、どう考えても歌舞伎の助六を連想しちまうのです。加えて助六の水入りに使うであろう桶まであってつい笑ってしまったのですけど、しかし解説には歌舞伎には一切言及がありません。近くにいた職員の人に「これ、助六と関係あるんですか?」と尋ねたのですが学芸員じゃないとわからないらしく、手を煩わせたらまずいと思って諦めています。でも、どういう意図があって製作されたのか、なんでこんなマニアックなことになってるのか、そもそも注文者が居るとしたら誰か、贈られたのは誰か、過去の所有者はどんな顔をしてこれを眺めてたのか、それらを想像するだけで時間泥棒で、「紅絵売り」に出会えただけでも岩槻に来た甲斐がありました。

話をもとに戻します。

知らなかったことを書くのは恥ずかしいのですが、ちゃんとかくと

ひな人形は桐のおが屑を固め頭部を作ることを(そしてそれを桐塑頭ということを)、岩槻に来てはじめて知りました。木彫りじゃないんだ…と口にしたら北海道の熊じゃないんだから…と呆れられたんすけど、たしかに優美な曲線は木彫りじゃムリっすよね。

3月6日まで岩槻では街のあちこちに人形が飾られています。ひな人形に限らなくて、たとえば

鐘馗さんの人形もあります。魔除けの意味合いがあるはずで、人形というのは愛玩に限らないという文字にすれば当たり前のことを再認識してます。

岩槻を見学したあと人形を買って帰りました…って云いたいところですがさすがにそんなことはなく、城下町の痕跡の残る街中で蕎麦屋で少し遅くなったお昼を食べて岩槻に少しだけお金を落として来ました。