当代の三平師匠のこと(もしくはある小説を読んでの雑感)

小説に書かれていることが事実であるかどうかを問うのはきわめて不粋なことと承知しつつも、「もしほんとであったらしんどいな」という部類の小説をいくつか読んだことがあります。その筆頭が立川談四楼師匠の「談志が死んだ」(立川談四楼・新潮社・2012)です。晩年の談志師匠の周囲を談四楼師匠の目線から描いたもので、少しだけネタバレをお許しいただきたいのですけど弟弟子の著書である「赤めだか」(立川談春・扶桑社・2008)を書評で誉めたことによって怒鳴られ、突然破門宣告されます。その謎ときを含め是非詳細は物語を読んでいただきたいところですが、フィクションと頭では理解しつつも「これ、当事者であったらキツイな」と読んでいて思いました。それくらい緻密に描かれた力作です。

話はいつものように横に素っ飛びます。

上記の本の中で三遊亭小円遊という落語家が出てきます。談志師匠が関係した笑点大喜利のメンバーで、元々は古典落語の担い手として嘱望されつつ、しかし結果として笑点でキザを演じてそれをウリにして売れっ子になり周囲はキザを要求し、収入は増えても結果的に次第に酒に溺れます。若き日の談四楼師匠が小円遊師匠の晩酌に付き合った夜の一部始終がエピソードとして描かれ、落語家が売れることや落語家の幸せに関して考えるきっかけになった、と記されています。主たる物語とはあまり関係がありませんがフィクションとはいえ「これ、当事者であったらキツイな」と思わされ、妙に印象に残っていたのですが。

さらに話が横に素っ飛びます。

笑点は(たい平師匠が大喜利でオネエキャラを演じて笑いをとるのがキツくて・私はオネエではないけど同性愛を笑って良いものと考えてるのがキツくて)しばらく視聴していません。それでも当代の三平師匠が新たに加入していることなどは知っていました。当代の三平師匠がどういう落語家になりたいのかは不勉強なので知りはしないのですが、三平師匠が笑点から卒業すると報道で知ってやはり思い浮かべたのが上記の談四楼師匠の小説の酒に溺れていた小円遊師匠のエピソードです。フィクションとはいえ、わかりやすいキャラで売れること・わかりやすいキャラを演じること、そして知名度を上げることが落語家にとって幸福とは限らないと知ると、無責任な外野からすると当代の三平師匠の選択は間違ってないようにも思えます。戦時中に創作され戦後は封印されていた落語を当代の三平師匠がここで口演しはじめていることを毎日新聞で知って、実は根がマジメな研究者肌の人なのではあるまいか?と疑っていたのでなおのこと。できるのは人力詮索だけで、もちろんほんとのところはわかりませんが。

事実ではないかもしれぬフィクションを読んで、そのあとに現実に起きていることを眺めてあれこれ考えてしまうのは噴飯ものかも知れぬのですが、なんだろ、(べったら漬けのポスターを眺めてて顔見知り感があるせいかもしれぬものの)当代の三平師匠の選択に妙にホッとしています。できることならこれから先代と異なる形で、名前を大きくして欲しかったり。