「モダン建築の京都展」

行かずに後悔するよりもどうせなら行ってから後悔しようというのはちょっと危険思想なのですが、新型コロナ対策に留意しつつこの土日に京都へ行ってて、京都市京セラ美術館で26日まで開催中の「モダン建築の京都展」を見学してます。主に明治以降から昭和40年代までの建築について触れた展覧会です。

美術館からみえる東山の山並みの、その東山の向こうの琵琶湖から引いてきた琵琶湖疎水の完成によってはじまる明治期の京都の殖産興業(と教育)についてからの展示からはじまっていました。京都には銀閣などをはじめ貴重な古建築が残っていますが、と同時に(おそらく大きな地震が少なかったことも影響してるはずですが)西洋の技術を取り入れた明治からこちらの建築もけっこう残っています。もちろん現存する琵琶湖疎水や(御所に消防用水を供給する)御所水道なども触れています。疎水については傾斜だけで琵琶湖から水道を引いたというのが工程を考慮すると個人的な驚愕のポイントなのですが、本展は土木的な観点は(残念ながら)あまりなく、建築もしくはデザインになるべく焦点を合わせ、当時の図面や資料や写真や資材や現役の付属品、場合によっては

模型を展示しながら、西洋の技術をどう消化していったかの展示が主です。詳細はやはり本展をご覧いただくとして。

疎水が完成し、明治後期になると外国の様式を取り入れた大丸ヴィラなどの建築が出てきます。烏丸通から眺めたことだけはあるチューダースタイルの建物のヴォーリスが引いた図面などが展示されてて、ついまじまじと見てしまっています。八坂神社の近くにはルネサンス様式やロココアール・ヌーヴォーなどを取り入れた長楽館という上品にいえば不思議な(下品にいえばなんでもありの)建物があって、やはり紹介されててつい「ふふふ」となってしまっています。その長楽館の備品が展示されてて

椅子などは写真OKだったのですけど

螺鈿細工の椅子が出品されていました。これらだけみると不思議な椅子で、椅子が周囲を選ぶ気がしてならず、建築というのは建築物に限らず空間を構成するものすべてを含むものもあるのかな、と改めて思わされてます。

西洋の建築技術や外国の様式を取り入れたあと明治後期から和洋折衷の建物が出現します。

もともとは西本願寺真宗生命の建物として建てられた本願寺伝道院などです。イスラム式のドームの下に和風の花頭窓、英国っぽく赤レンガのタイルに花崗岩の帯状の装飾、わかりにくくて恐縮ですが側面に千鳥破風と思われる意匠を施しています。この本願寺伝道院だけは滞在中に西本願寺そばにある実物を見学してて、妙に印象に残る建物でした。保険会社の建物ですから可視化できない信用を保持するために可視できる部分では印象に残る立派な建物である必要はあるので、その点、施主の目論見はおそらく成功したはずです。

さて、京都にはチェーンではないコーヒー店がいくつかあるのですが、そのコーヒー店も本展では都市文化の観点から紹介されていました。四条河原町の駅からそれほど遠くない喫茶室フランソアの

店内が再現してあって以前コーヒーを飲んだことがある場所でもあるので、展覧会のテーマが妙に身近に感じられました。

モダンとはなにかといわれると専門家ではないので答えは難しいですが、確かに西洋の建築を取り入れ消化し、街並みに馴染んでいていまの京都にはたしかに欠かせない要素の一つかもしれなかったり。

だったらあそこもあるかな…と思っていた(個人的にお気に入りの)京大そばの進々堂も紹介されてました。やはり貴重なところだったのだな、とシロウトながらも妙に腑に落ちています。

時間泥棒的なほんとうに興味深い展覧会ではあったものの、少しだけ残念だったのはできればもうちょっと明治期以降のモダン建築を支えた素材のことについて、たとえば外内装にも関係してくるレンガやタイルなどの紹介がもう少しあればよかったのにな、と。そんなことを気にするのは少数派かもしれないのですが。

流行りの擬人化したパネルが置いてあって「え、そこまでするの…」と驚愕してます。ただ入り口はどこでもいいので、建築の興味を持つ人がちょっとでも増えてくれればいいな、と。