それをどこで読んだのか全く記憶が無いのだけど中島らもさんが以前、「仕事と愛」だったか「ビジネスと愛」だったかについて書いていました。上司と部下が恋仲になってしまった挙句に在庫管理をしなければならぬ倉庫で(よいこはわかんなくていいような)いたすことをいたしはじめるマンガの例を挙げ、愛というものは仕事やビジネスと相容れない概念である、と喝破(?)していて、妙に腑に落ちています。ただ偏愛とか略奪愛とかホークス愛とか愛という言葉はあいまいなのでどこにでもくっつくので厄介で、なおかつ、けっして悪い印象にならないのが難点です…って愛について語りたいわけではなくて。
東京ローカルな話で恐縮ですが、品川駅にまったく縁が無いので実物を見たわけではないものの、今週に入ってから「今日の仕事は楽しみですか」という広告が品川駅の通路に掲示され、それが物議をかもしていました。「楽しみ」という言葉も「愛」と同じくあいまいで、「今日の仕事は楽しみですか」以外にも「今日の退勤後のビールは楽しみですか」とかあいまいゆえにどこにでもくっきます。加えて、「楽しい」ことは悪い印象にはなりません。ただそれを評価軸にすると少なくとも仕事に関しては変なことになることが有り得ます。安全をすべてにおいて優先すべき職場では当然「安全が第一」なのですが、「安全が第一」は凡事徹底なので必ずしも楽しくありません。というか総務も経理も凡事徹底で、凡事徹底の職場に楽しさという評価軸を入れるとまず「楽しい」わけはありません。「楽しい」と反対の「楽しくないこと」が存在してはじめて仕事は成り立つことが有り得ます。給料を得ながら「楽しくないこと」があるから別の場面では「楽しい」と思えることもあるわけで。
「仕事は楽しみですか」ということばは根っこに「仕事は楽しく」という発想があるはずですが、すべてにおいてそうあれば現世は楽園ですが、残念ながら現世は楽園ではありません。なんだろ、「今日の仕事は楽しみですか」とコピーを書いた人の・オッケイを出した人の、仕事観・世界観がことばによってあからさまにタダ漏れになってて、ことばをつかって文章を書くことって怖いな、と品川駅の広告の記事を眺めてて考えちまいました。もしかしたらそんな感想を抱くのは少数派かもしれません。でもって、出稿した側の意図した意味を私がとれてない可能性もあるのですが、だとしたら「伝わるように書く文章って書くの難しいな」とも思っちまっています。
仕事と愛の中島らも説のように相容れない概念とまではいかぬまでも、楽しさと仕事はちょっと縁遠いのではないか、と個人的に思います。残念ながら(残念ながら?)いままで「今日の仕事は楽しみですか?」と訊かれたことはありません。できれば懐から黒ラベルを出して「男は黙ってサッポロビール」とシャレにしたいところですが難点がひとつあって口にしたら黙ってないことになります(加えてビールを常に懐に入れるわけにもいきません)。シャレの効いた受け答えをするとしたら、なにがベストなのか5分程考えたのですが、やはり思い浮かびません。そういう点からしても拡がりのないつまらない問いかけなのかなあ、と。