「君の膵臓をたべたい」を読んで

先日、「君の膵臓をたべたい」の映画を観たこと・若干刺さったものがあったことを書いています。19日に県境をまたいでの移動が解除になり、でも7月の盆の頃がどうなってるのかわからないので両親の眠る神奈川へ週末に行ってて、その往復の電車の共として原作を読みました。「とてもおもしろかったです」的な小学生的感想でもいいのですがさすがにそれで終わらせるのが惜しいので、書きます。

小説「君の膵臓をたべたい」は冒頭、登場人物のひとりである山内さんの葬儀からはじまります。映画を先に観てしまったので内容も死因も知ってはいるのですが、このはじまりは正直予想外でした。その先の展開はぜひ原作をお読みいただきたいのですが、映画と原作に若干の乖離があり、一粒で二度おいしい思いをさせてもらっています(ただし本作はわりとシリアスな話です)。そして物語の芯のひとつになり得るので非常に書きにくいのですが、登場人物の心情を表すために普通の小説では絶対行わないであろう小さいけどきわめて特異な工夫が物語の後半部まで持続しています(詳細は本作をお読みください)。その工夫にも唸らされました(声を出さないで小田急線で唸ってる40半ばのおっさんをご想像ください)。

いつものように若干のネタバレをお許しください。映画では近江鉄道の沿線の町が舞台になっているように思えたのですが、原作は一切江州弁もでてこないばかりか間接的に九州以外から九州へ行く描写があることのほかは特段の明示はありません。でも映画よりもマンガ感はなく・冗長でもなく・作りごとっぽくはありませんでした。映画と原作のどっちがいいか、といえば、私は会話がやたらと多くシリアスさをそれほど感じさせない原作のほうが好みです。もちろんかなりシリアスな場面もあります。偶然や運命を否定して選択の結果だと諭すところなどがそうです(詳細は本作をお読みください)。ただシリアスだけではなく、ゲームの結果として「生きるってどういうこと?」と問われて答えなければならなかった山内さんは(経験もしくは体験からくる)自説を展開するのですが

「…っとぉ、かなり熱弁してしまいましたけどもぉ、ここ真剣10代しゃべり場だったっけ?」

「いや、病室だよ」

 (p193)

というように山内さんがボケて、主人公がツッコミを直後にしています。ゲームとはいえ真剣に考えてつい熱弁してしまったこっぱずかしさもボケをちゃんと拾ってツッコミをいれるやさしさも、文章だからこそより理解でき、ちっともシリアスではないこの部分を文章で読めてよかったと思いました。もしかしたらかなり感想としては一般的な回答からズレてるかもしれませんが。

ほんとにおっそろしくくだらない話を書きます。

物語内で実は博多駅が登場します(詳細は本作をお読みください)。そこで山内さんは「ラーメンの匂いがする!」というのですが、主人公は「気のせいじゃない?」と否定します。ところが(おそらくデイトスの)改札を出るとたしかにラーメンの匂いがして主人公は動揺し、山内さんはぬふふと笑います。私も改築前の博多駅の博多口で動揺したことがあるので、福岡初心者は駅の近くでラーメンの匂いを嗅ぐと確かに動揺するよなあ、と思いました。そういう細部も丁寧に描かれてるところを含めて、なんだろ、(青ブタを含めて青春小説ばかり読んでる気もしますが)良い作品に出会えたかな、と。