戸籍という変わらない制度

民法の739条の1項に「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる」とあります。だからなんだと云われそうな条文なのですが、「戸籍法の定めるところにより」と別の法律に丸投げしているところがちょっと特殊です。不動産の物件の変動及び変更に関して定めた民法177条には不動産登記法が出てくるのですが、戸籍と不動産登記は明治期に旧民法が成立する前から存在して深くいじれないので、民法の条文上はそれぞれに丸投げしている格好になっています。

戸籍は長州藩にあった制度でそれを明治新政府が採用して全国展開しました。明治四年に戸籍法ができて、翌年に戸籍ができて、それを通称壬申戸籍といいます。戦後家督相続の廃止であるとか民法の改正によって変わったところはありますが、基本は変わっていません。たとえば自治体に「届け出る」制度です。「届け出る」ことをしなければ基本は何も変わりません。ですからなんらかの事情で誰も「届け出る」ことがなかった死体が生き返ってゾンビになった場合、そのゾンビは書類上は死んでいないので戸籍がある第三者との婚姻も離婚も養子縁組も可能なゾンビってことになりますって冗談はさておき。

真面目な話を書くと戦時中、広島市では米軍の空襲に備えて比治山に戸籍を移動させてピカドンによる焼失は免れているのですが、ピカドンの結果家族の誰も生き残ることができず、かつ、誰も届け出る人が無く、その結果生存していないと考えられる人が戸籍上は生きてることになり、広島市と広島法務局が協議して戸籍を職権で抹消した事例はあります。が、基本は「届け出る」ことが前提で、自治体に強制的に調べる権限がありませんし抹消できる権限も本来はありません。戸籍は相続に必要書類で財産的権利を支える大切な記録でもあって、自治体側が勝手に安易に抹消するとトラブルのもとになりえるからできないです。なお311のときに自治体の役場が被災する事例がありました。現在戸籍の正本を自治体で保存し、副本を法務局で保管する運用ですが、そのときは法務局の副本を利用して被災した自治体の戸籍の再製作業を行っています。

わたしが問われたわけではないのは承知してるのですが、☆を頂いた方から不動産登記簿と異なりなぜ戸籍は取りにくいのか、なんでや?というのがありました。くり返しになりますが、戸籍は届け出を含めて明治期から続く古い制度が基本継続しています。いじっていません。1994年から電算化が進んではいるものの、自治体ごとの従前の戸籍の事務処理をコンピュータ処理してデータベース化してるだけです。全国のネットワーク化を図るオンライン・システムは導入されてません。なので取りにくいのです。高度な個人情報を扱うのでプライバシー保護の観点から同じ自治体のなかでもほかの事務システムからすら戸籍系にはアクセスできないようになっているはずです。

ただ、改善の動きはあります。さきほど戸籍について自治体に正本があり法務局で副本を保管しそれが被災した自治体の戸籍複製に役立った、と書きました。その副本を持つ法務局を管轄する法務省のシステムをネットワークでつなぎ、どの自治体でも戸籍をとれるようにするように去年、戸籍法を改正しています。運用開始予定は2024年で、ちょっと先なのですが。

ちょっとくだらないことを。相続における戸籍は生まれてから死ぬまでのすべてが必要になります。死んだ父は墨田区台東区に架る厩橋のあたりで産まれた、というのは聞いてはいました。念のためそこも探そうとしました。でも橋の名前は別として厩橋なんて地名はいまはありません。台東と墨田のどっちで産まれたのかもわからなくて、やむを得ず墨田区台東区の2つの区役所へ行ってます。「電話して訊けたらなあ」なんてことを考えたのですが、親が死んだあとってわからないことに直面するとそう考えちまうことってありませんかね。ないかもですが。