citrus「the way I love」

小学校の教科書に「附子」という狂言があり、毒だから近づくなと言われたんだけどのぞきこんでしまい気になって舐めてしまうのだけど、なぜなめたかということの理由を無理矢理考え出さねばならなくなり、茶碗と掛け軸を割って「(大事なものを壊したので)死んで詫びようと思った!でも死ねなかった」ということにしようともくろんだ、そこに主が返ってきた、さあどうなる…というのが話の筋でした。とても惹かれちまい、以降、「え、どうなるの?」という話をみると引きこまれることがないわけではありません。

話はいつものように素っ飛びます。かつ、匿名を奇貨として云い難いことを書きます。

ローカル局のMXで青ブタのアニメを視聴して以降、MXになんのきなしにチャンネルを変えるようになりました。夏の夜、風呂あがりにテレビを点けたところやはりアニメをやっていました。前後はまったくわからないけど向こう見ずな姉が父との関係がうまくいかない血のつながらない義妹を説得し、自転車の後ろに義妹を載せて夕暮れ時の不忍池を経て全速力で駆け抜け京成上野へ向かい(この映像がとても鮮やかできれいだった)、駅のホームで海外へ行く継父と妹を引き合わせ、躊躇する妹の手をしっかり握ってから継父の許へ送り出し和解させていて、つい見ちまいました(最後の最後で継父に歩み寄る勇気を手を握ることで与える、というのがとても良かった)。京成上野から自宅に戻ってから義妹が継父と仲直りしたことを姉は心底喜んで泣いていて「妹思いの良いやつやん…」などと怪しげな方言でそのときは感心していました。が、義妹が姉の涙を手でぬぐおうとしたはずみにキスになりお互いの手を絡めてて「え?」となったものの、義理の姉妹であったとしても犯罪じゃないし好意があればそれほどおかしいことではないよなーと考れればそれまでで、でもあからさまには他人に言えないような経験を引きずる者からするとフィクションとはいえ「どうなるの?」と附子と同じように気になってしまい、途中のその回から最後まで、一人でいることが多い木曜夜の放映であるのを奇貨として微妙な背徳感を感じながら見続けていました。この微妙な背徳感は他人の恋愛を覗き見しているところから来るものでしょう。それも女子高生の恋愛なので、確実にキモいおっさんです。citrusというアニメです(9月上旬に放映終了)。詳細はなんらかの方法でアニメかマンガで触れていただくとして。

アニメの利点は動きを表現できるところです。途中から視聴してるのでヘタなことは云えませんがアニメのcitrusで印象的だったのは「手」です。既に書いた継父との歩み寄りに躊躇する場面のほか、他人に言われたことを気にして義妹が不安を吐露するなど妹が揺らぐと姉が手をしっかり握ったり(おそらくそこから伝わる体温が人を安心させるのだろうなあっと容易に想像がつく)、姉が自分以外の年下の幼馴染と仲の良いところをみてしまった義妹は膝にのせていた大きな熊のぬいぐるみのクマゴローの前脚を帰宅した姉の前で手で揉みはじめたり、キスシーンは手を絡め、義妹が姉の手を取って鼓動を感じさせたり、視聴するうちに手というのは意思がないと動かぬものでゆえに手って雄弁で意思表示や愛情表現の手段でもあるんだよな、ということに改めて気が付いています。また互いに器用ではないものの、冷静だった義妹が向こう見ずな姉の影響を受け・姉もまた義妹に影響を受け、変化してゆくさまが描かれてて、世上の評価は知らぬものの、良い作品を(こっそりと)視聴したのかなあ、と。

お題のマンガの話を引っ張ります。

アニメ放映後原作の漫画があるのを知り、はたらく細胞を優先していたのでまだ最初のほうを含めてすべてを読み切れてはいませんが後日談だけを少しずつ相変わらず背徳感を感じながら(こっそりと)読み進めています。

原作の漫画でも向こう見ずな姉はガチで友人や義妹のために全力で動いていました。その中で、義妹に出会う前の友人たちと姉は再会してお茶をし恋バナをしようとし、そこで友人たちがそのそばにいた見ず知らずの同性同士のカップルに対して聞こえぬように投げかけた些細な言葉に傷つき・同性2人というのが認めてもらえにくいことであることに気が付き、義妹に同じ目に遭わせたくないと考え悩むエピソードがありました(6巻のthe way I loveおよびNot give up love)。過去のおのれがまったく考えなかったことがないわけではないことでもあったのと、正直、無防備に読んでいたので抉られています。悩む姉とそれを見守る義妹がどうするか・どうなるかは原作をお読みいただくとして、恋愛を甘やかで優しいものばかりであるというようなご都合主義のファンタジーにせず、本人たちのせいではないもののときとして背負わねばならぬものをきちんと登場人物に理解させ考えさせてることに、非常に好感が持てました。それを書きたいがためにこのエントリを書いています。マンガをあまり読まないけど、マンガはまだ捨てたもんじゃねえ、と思えてます。

余裕のあるときに読み進めてて、まだ読んでいない巻があるのとさらに今月新刊が出るらしいのですべてを読み終わるまでちょっと時間がかかりそうです。「どうなるの?」と期待して読める本があることは幸福なことかもしれません。ただ、青ブタ同様、表紙が女子高生なので非常にレジに持って行きにくいです。啓文堂citrusの単行本を手にレジ前で挙動不審な美中年…じゃねえ、くたびれたおっさんが居たら声をかけたりせず、生温い視線でそっと見守っていただけると幸いです。