茶漬け

歌舞伎の演目に沼津というのがあってどういう演目かは歌舞伎をご覧いただくとして、登場人物が荷物を背負うときに「これくらい、朝腹の茶がゆでござりますわ」と軽く啖呵を切る場面があります。最初意味がわかんなくてあとで辞書を引くと「朝腹の茶漬け」というのがあって、朝に茶漬けを食べても腹の足しにならぬ、というところから、まったく堪えない・どってことない、という意味があることを知りました。たぶん意味が通じないと思うので他人様の前では使ってないのですが、腑に落ちたのと響きが気に入ってて誰もいない場面では「これくらい、朝腹の茶漬けやがな」と怪しげな方言でひとりごとのようにつぶやくことがありますって、話がズレた。

千葉の三越の前身を経営していたのが京都の杉本家という呉服商で、その杉本家に伝わる江戸期の献立や料理を記した歳中覚という書物の番組をNHKBSで以前、放映したことがあります。(特別な日はそれなりの食事が出るのですが)興味深かったのはふだんの朝夕の食事は香の物に具のないお茶漬け(9月半ばから3月半ばまで茶粥)のみ、とされていて、腹の足しにならないはずの「朝腹の茶漬け」で腹を満たしていたわけで、茶漬けのみの食事が杉本家だけなのか京都の商家ではあたりまえだったのかはわからぬものの、勤務するならせめておかわり自由であったらいいなあ、などと条件付き希望を抱きながら視聴していました。なお杉本家の茶漬けは(これもまた杉本家だけなのか京都全体のぶぶ漬けがどうなのかはわからぬものの)ほうじ茶で、十二指腸潰瘍のとき煎茶はNGでもほうじ茶はオッケイだったので真似て試したこともあります。けっこうイケます。

つい最近はコショウでしたが、ふだんは茶漬けをするとしたらだいたいわさびを効かせた煎茶の茶漬けです。腹持ちしないという決定的な欠点はあるものの、茶漬けの満足度は個人的にわりと高いです。なんだろ、温かいものを口腔から摂取する感覚は腹を満たすことより、生理的に安心感を覚えるのではないかと思ったり。誇大妄想的になっちまいましたが。