欽ちゃんのアドリブで笑

NHKBSはたまに不思議な番組を作るのですが欽ちゃんのコントに関する「アドリブで笑」という番組を放送していたので録画して視聴しました。とても面白かったです。で済ませば楽なのですがそうはいかない濃い内容なので書いておきたいと思います。
NHKBSで今年の1月にコント55号を特集した番組がありそのなかで欽ちゃん=萩本欽一さんは、台本があってそれをきっちり稽古して、というのはそれはショート芝居で「コントではない」と証言していました。台本どうりに「次に何やるか」ということと笑わすことを同時にはできない、という理由です。欽ちゃんはそのスタイルで来ました。番組は主に欽ちゃんが育った浅草の軽演劇そのままに、リハーサルなし台本なしで欽ちゃんが身につけたコントのノウハウを小倉久寛劇団ひとり、矢野聖人といった俳優陣に叩き込むワークショップで進行します。
しょっぱなは欽ちゃんの出すお題「割れない割りばしに文句」「キャベツを買ったときに捨てられてしまう外側のキャベツにひとこと」などに沿って即興で演技をして、その演技に評価したりダメ出ししながらどうやって深くするかを叩き込んでいました。根っこにあるのは演技を見せろ、ということで、たとえば「捨てられるキャベツにひとこと」言う場合立ったままキャベツをむしる動作ではダメで「演技を見せろ」と欽ちゃんがアドバイスをすると矢野聖人という俳優さんは勘が良いのか地べたに伏して捨てたキャベツにひとこと声を掛けていました。文字にしてしまうとつまらないですが、それだけで深みが出てぜんぜん違うのです。演技というものが深いのだな、とシロウトはここらへんでうちのめされていたんすが。
ついで「察する」という動作のワークショップでは欽ちゃんの動作に対する反応からどんどんふくらましていました。同じことを二度云ってはいけないルールで欽ちゃんが倒れ込みそうになるときに各人がどういう反応をするかということを試していたのですが「大丈夫ですか」のほかに「病院紹介しましょうか」「もう年ですもんね」とどんどん切羽詰まれば機転の利いた答えが出てきます。つまるところ何が起こるかわからないところに「おかしみ」がでてくるのです。「うむ、そういうことかー」とちょっと唸っちまったんすが。
ワークショップの途中から御年84歳の仲代達也さんが参加して経験豊富で迫真の演技をしながら絡んできたのですが、まじめな次に何が起こるかわからないような迫真の演技であればあるほど「おかしみ」が出てきちまうのです。謎なんすけどこれも目からうろこでした。この謎について直接的な解があったわけではありませんが後半部分で若手俳優への指導時に「笑いをしようとするのではなくまずいい芝居をする」ことを説いていて、おそらくそこらへんが大事なのかもしれません。途中コント55号の映像も流れていて、田端保線区から来た坂上さんが萩本コーチについてマラソンの特訓するのですけど、言葉ではなくアクションで笑いを誘うもので坂上さんはほとんどふざけているようにみえない演技なのです。でも息ができないくらい・苦しくなるくらい笑ってしまいました。
後半では「動きのアドリブ」というか「カタチを崩すこと」を目的とした動作のワークショップがあり、罪人として連れていかれる兄をみて弟が「兄ちゃんを返してください」と岡っ引きに縋るシーンなのですが、ホントの芝居では前に行って行く手を阻むように足にだきついてとめようとしますが、後から足に抱き着いてしまうように指導していました。行く手を阻まないので追いすがるほうを引き摺りながら続ける余地ができ、そこにアドリブを入れることができるのです。右足と左足に一生懸命に追いすがる2人を引きずりながら前に進むと不思議とコミカルな演技ができてしまうわけで。「いい芝居」を意識したうえで崩すとそこに笑いがでてくる余地があるのです。文字にするとわけわかめですが、欽ちゃんの作るコントの秘密の一部がなんだか理解できたような気が。
付随して本人は気付いてないかもなのですが劇団ひとりという人が器用すぎて、間がないようにひたすら空間を作り出し他者が入れないような空気を作り出し、さらに注意を受けて間を作ったらそれが完璧で、その結果誰も絡めなくなってしまうアクシデントがあって、間のとり方の難しさというものが(ほんとはNGなのかもしれませんが)手に取るようにわかりました。
笑いってなんなのか、というのは私は理解していないのですが、根っこにあるのはまじめにやることと「いい演技」と「瞬発力」なのかもしれません。
何回か連続でワークショップは続くようなのですが、次回が楽しみであったりします。願わくば市川猿之助丈とか野村萬斎さんとか畑違いの人がコントをどう見ているかをちょっと知りたかったり。
[追記あり]
gustav5.hatenablog.com

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