欽ちゃんの異常な世界

週末にNHKBSで「コント55号笑いの祭典」というのをやっていて、録画していたのを視聴しました。コント55号をほぼダイレクトには知らない世代で、欽ちゃんの番組の仮装大賞の初期の頃をうっすら覚えてるくらいです。なものですから、すべてが初見に近くたまらなく面白かった!という感想なのですが、それで終わらすのは惜しいのでちゃんと書きます。
前半部は過去の映像から数本抜き出してのコントの分析です。興味深かったのは、ほぼすべてがアドリブであることです。劇団ひとりからの質問に答える形で大将からの説明があり、台本があってそれをきっちり稽古して、というのはそれはショート芝居で「コントではない」と断言していて、「次に何やるか」ということと笑わすことを同時にはできない、という理由も述べています。その場をどう乗り切るかということを考え、同じことを二度できなかった、とも。
個人的に衝撃的であったのは「吉祥寺音頭」というコントです。「人情愛情きちじょうじ」のメロディに坂上二郎さん演じる呉服屋の旦那に欽ちゃんがふりつけを頼むコントなのですが「ぐるっと廻ってください」「阿波踊りをいれてください」と最初はマイルドなのですけど「新体操の手を」「ラテンのリズムを」「指を噛んで」とか丁寧ながら要求がちょっとずつ無茶振りになってゆく・収拾がつかなくなってゆくもので(わたしがどちらかというとゲラのせいもあるのですが)息ができないくらい笑いがとまりませんでした。関根勤さんが「ボケの人が間違ったことをしてそれを正すのではなく、一般人の(まじめな)坂上二郎さんが欽ちゃんの異常な世界に巻き込まれてゆく」姿というとても冷静な分析をしていて、根っこはどこか不条理であるのだけど、表面的には不条理とおもおわせない不条理さが笑いの根源のひとつなのかなあ、とも思えましたって、笑いってなにかってなに一つ私はわかっていませんが。
後半部は浅草のコントの基礎訓練を小倉久寛劇団ひとりをはじめとする俳優陣にびっちり仕込むワークショップで、まず歩き方から「下を見るな」等徹底指導し、間のとり方や役を膨ませること(間のとり方は教えるのが難しいのではないかと思ったもののダメ出しすることでうっすらと欽ちゃんの意図する間が理解できた気がした)、そして前後半通じて「言葉で笑わすのではなくアクションで笑わす」ことなどを実例を踏まえて濃密に紹介していました。すごくキモだとおもったのは欽ちゃんの求める対応は常識的対応ではないアクションです。求めてることはちょっと不条理です。どんな車に乗ってるの?描いて見せて、って空中に指で絵を描かせた後の指のアクションにツッコミを入れて「それなに?」とやります。常識にとらわれないことからくる困らせ芸でもあるのですが、そのドキュメントが笑いになっています。
笑いというものがいったいなんなのかということを改めて考えさせられたのですけど、最後の最後に「笑わすのではなく笑ってしまう」笑いに触れていて、欽ちゃんの理想とする笑いをなんとなく理解したような気が。