便利な店

はるか昔に三越に岡田さんという人がいて、社長在任中に愛人と思しき女性の会社からアクセサリー等を三越仕入れさせ、という事件がありました。当時の三越はこの岡田さんという人に刃向う人を社外に放り出したり子会社に飛ばしたりしたほか、引き立てられて恩義を感じる役員が少なからずいて、公私混同同然のことをしても面と向かって忠告する人もおらずなかなか止められなかったのですが、取引銀行等が圧力をかけて取締役会でクーデターを起こり、岡田さんを解任してケリをつけました。役職が上の人の暴走を周囲が止められない、という構図は古くからあったりします。私の学生時代は商法でしたが会社法の勉強をしてると「取締役とか社長とか会長とかは基本的に悪いことをするかもしれない」というのを植え付けられます。条文を見てるとそれを監視しなければならない、という発想になってます。そこで考え出されたのが社外の取締役を入れること、代表取締役社長とかの権限を奪う条文を作ることです。大会社の場合、社外から取締役を入れることがけっこうあります。
大会社の場合、指名委員会設置会社って言う会社法上の機関を設置できて、会社の中に指名委員会ってのを作ってそこで取締役候補を決めたりします。会社運営の実務者たる取締役を誰にするかという人事案をそこで練るようにしておき、指名委員会設置会社の指名委員会は必ず社外の役員を半数は入れなければならないので、変なことはできませんしほどほどに公正さが保てます(建前は)。
でもって今回のセブン&アイの内紛の場合、事実上のトップ(鈴木会長)の意向を受けた人事案を指名委員会が受け入れず、受け入れられなかった事実上のトップの意向を踏まえた人事案を(社外の取締役もいる)取締役会が否決した格好になってます。いい意味では会社法の予定した「社長とか会長とかの好きにはさせない」という意図がそのまま通用した教科書的事例です。
ただ、今回の経営の混乱のもとである鈴木会長の功績、というのは別に評価されておくべきかもしれません。日本にコンビニという業態を根付かせた、という社会的評価と同時に、POSのシステム≒いつ(時間帯など)どこで(店舗名)誰が(顧客の属性等)、何を購入したかを把握することができるシステム、をいれて売り場から売れない商品をなるべく排除して、売れる商品で売り場を埋め尽くす、という手法、および商品の発注数量などを単品単位で仮説を立てて実際の販売結果で検証を行い仮説の見直しを行うという「単品管理」の概念を持ち込んで、それを愚直なまでに実行させた手腕、という点で経営手法の教科書に名を残すことになるかと思います。
もっとも鈴木体制の下、セブンやヨーカドーが魅力的な店になったか、というとかなり怪しいところがあります。セブンやヨーカドーは便利な店ではあって、それは誰もが認めることではあるのですが、なにを生み出したか、というとやはり「便利な店」ということでしかないのです。セブンはともかくとして、ここでヨーカドーの業績が苦しい・ヨーカドーが赤字なのはそこにおいてある商品が競合の他店、それがユニクロであったりしまむらであったり洋服の青山であったりラルズであったりマルエツであったりするんだけど、くらべられて魅力がない、ということであります。データを重視して、データを分析して、っていう経営が悪いとは思わないものの、それでヨーカドーが負けてしまってるのはやはり、「便利な店」かつ「売れるもの」を並べるだけではダメだからなのだろうな、と。
名経営者の引退後、セブンはともかくとして、じゃあこのあとヨーカドーはどうするのかなあ、と。えらいいばらの道のような気がするのですけども。