サイトウキネンオーケストラっていうオーケストラがあります。桐朋という音楽系の大学を出た人を中心に結成され(より正確にかけば斎藤秀夫という桐朋の音楽教育者の薫陶を受け内外で活躍している奏者や指揮者を中心に結成され→なもんですからサイトウキネンなのです)、いまはどちらかというと桐朋出身者に限らず初期にサイトウキネンに居た人の教え子や監督である小澤征爾さんが呼んできた人が中心の、常設ではない・必要に応じて結成されるオケです。たいてい夏の松本の音楽祭の前後や海外遠征時に結成され、サイトウキネンも松本の音楽祭も20年以上続いていています。
一昨年の夏のサイトウキネンでは「子どもと魔法」というオペラがありました。それが今回グラミー賞をとっています。実は一昨年NHKで放映してて、陳腐な言葉でいえば色彩豊かな音色で、きまじめでもないかわりに確実に現実ではないどこかに引きこまれるっていうか、録画していたので何回も繰り返して視聴していました。そっか、アメリカでも高評価だったのか、という印象です。
サイトウキネンオーケストラはマーラーもやりますしブラームスもやります。今回はフランスの作曲家の作品ですが、ドイツものもロシアものもチェコのものも出来ます。ここのところ微妙な話なのですが、日本における西洋音楽というのは必ずしもイタリア、フランス、ロシアやドイツに比べ伝統がありません。日本人はだいぶあとからフランスやドイツ、ロシア等の音楽と各国の奏法を俯瞰して眺めて取り入れることが可能でした。専門家ではないのでへたなことは云えないですが、たとえばドイツ音楽では低音で鋭いアクセントが重要ですがフランスの場合それほどでもなく優雅さや複雑な旋律を要求されます。パリやリヨンのオケはフランス音楽の演奏の歴史がありますがドイツ系の音楽が得意かというと、やれることはやれますが、それほどでもありません。逆にドレスデンハンブルグのオケがフランス系の音楽が得意かというとそんなことはありません。日本人は白紙の状態から出発し、ドイツやフランスのテクニックを吸収し、ドイツやフランスのデメリットを引き継がなかったものの、「東洋人がどこまで西洋音楽を理解できるのか」というのがつきまといました。この命題は小澤征爾さんにとっても(おそらくサイトウキネンにとっても)ずっと背負ってこられた重い課題のひとつになります。でもってサイトウキネンと小澤さんは少なくともアメリカでラヴェルの作品で「東洋人が西洋音楽をとても理解している」という評価を得たのではないか、と云えるかもしれません。小澤さんのボストン響時代はそれなりに叩かれていたことを思い起こすと、アメリカでの評価は意外ではあったんすが、って、能書きはともかく。
願わくば、芸術の女神が指揮棒の先とオケと松本にこのさきにも降臨しますように。