さよならリブロ

池袋というところにうなぎの寝床のような西武百貨店があります。その南の端にリブロという大きな書店があります。西武百貨店は亡くなられた堤清二辻井喬)さんという人が社長・会長を務めてた時期があったのですが、堤さん・辻井さんが池袋西武内の書籍売り場で安部公房の「燃え尽きる地図」を購入しようとしたけど見つからず、店員に訊いたら地理関係のところにあったという経験から、外部から人材を招いて書籍売り場作り直し、その作り直した書籍売り場が独立したのがリブロです。もともとは西武百貨店西友傘下でしたがいまは書籍取次会社の傘下です。広い売り場で、大学生の頃には人文系で探したい本があった場合、八重洲ブックセンター駿河台下の三省堂、新宿紀伊國屋、池袋西武のどこかに行けばあるとバイト先の先輩に教えられていました。実際、三省堂に無かった場合、池袋まで何度か行ったことがありました。社会人になってからも(紀伊國屋ジュンク堂に比べ)探しやすいので何度か行っています。池袋のリブロが変わってたのはアールヴィヴァンという名前だったか美術を扱うところと、ぽえむぱろうるという詩を扱うところがありました。へええ、と何度か覗いたことがあります。儲かっていたかはわかりませんが、ぽえむぱろうるはかなり後・10年くらい前まで残っていました。私個人は文学はもちろん詩も語れるほど知識がない・詩情もない・感性の鈍い、でも性感帯のみ発達してる人間なのですが、世の中あんがい詩を愛する人が多かったのかもしれません。もちろん参考書やコミック、新書や雑誌もあります。そこは三省堂も同じでした。でもリブロが違うのは詩というまったく関係のない別の変数をひとの脳内に入れるきっかけ・とっかかりをぽんとおいてある店だったところです。また売り場が地下にあるところが一部あり・スクエアなビルではなく若干複雑な売り場であったせいもあり、なんかこっそり宝探し気分で本を探しに来た気になるところでした。
さて、長々と書いてきたのには池袋西武リブロが閉店することが毎日に書かれていたからです。そのあとになにができるのか・別の本屋はできるのかまではわかりません。西武百貨店はいまはヨーカドー傘下で、リブロはヨーカドーと縁もゆかりもありませんし、Get out of hereっていわれたら、従うしかありません。また比較的元気のある書店と思っていたリブロも売り上げが減少傾向であることも毎日では触れられていました。出井さんというソニーの社長だった方が「インターネットは産業界に落ちた隕石だ」と喝破していたのですが、書店はおそらく隕石の被害を一番受けたところなのではないかと思っています。
ビジネスは慈善事業ではないといってしまえばそれきりで、儲からないならやむを得ません。でも隕石が落ちたあと「なにを生むのか」と言われれば、必ずしも楽しい未来とは言い切れなさそうな気がしてならんかったりします。もっともここらへん、限られた資金の中で迷いながら「どの本を買おうかな」という思索がそれなりの楽しかった経験として残っている人間の、感傷に根ざしたものに過ぎないかもしれません。