渋谷区の条例案

私事で恐縮なのですが、私が法学部に入って民法の相続法・家族法の勉強をしたときに、いちばん最初に教壇に立つ教授から投げかけられた質問が、なぜ同性では婚姻できないのか、ということでした。もう二十年近く前のことです。民法には同性はいいとは書いてないけどダメとは書いていません。でもできません。憲法上は両性の合意によって婚姻が成立するとありますし、民法は戸籍法に定めるところによりってあります。その戸籍法では婚姻の関係条文のところには夫婦って文字がかいてあって、想定されてるのが男女なのです。戸籍制度がまずあってそこに民法の規定がぶらさがってる構造なのです(不動産登記に関しても登記制度があってそれに法律がもたれかかるような不思議な構造です)。戸籍制度と憲法をなんとかしないと、同性というのは婚姻できません。
私が民法を勉強してからかなり経つのですが、渋谷区が条例を制定し同性カップルに関して証明書を出す、という方向に進んでいます。まだ条例が制定されたわけではありません。案としてでているだけです。民法や戸籍法の定める婚姻とは別種で、戸籍に記載できないし、法的拘束力があるかというと怪しいところがあります。それでもけっこう踏み込んでるのは、渋谷区がカップルであることの証明書を発行し、同性カップルに関しては夫婦・家族と同様に扱うよう区内の民間機関に働きかけるというところです。たとえば病院での面会とかを念頭に置いてるようなんだけど、ああなるほど、と思いました。
条件というのがいくつかあるようで、任意後見人を相互に指定し、公証役場公正証書を作成しておくことを前提としています。民法の規定に後見制度というのがあり、後見人というのは契約等を被後見人に代わり行えるもので、被後見人が何らかの事情で事務管理能力を欠いてると思われる場合にたいてい選任されるのだけど、あらかじめ任意で定めておくことも可能で、任意の場合は事前に公正証書を作成しておくことを義務付けられています(任意の場合、実際に被後見人が後見制度をつかうような状態になるとは家裁が後見監督人を置くことにはなっています)。任意後見人の制度がなにかあったときパートナーが法的なことを代行する前提でそれを利用しつつ、渋谷区の条例案はそこでカバーしてない部分をある程度補完してて、ちょっと唸っちまうのですけど、それはともかく。
婚姻ができないカップルというのの筆頭が、同性のカップルなのですが、婚姻はムリでもちょっと道が開けてきたのかもしれません。渋谷以外でも似たような動きが出てくれば良いなあ、とは思うのですが。