鉄道総研へ

中央線というのが東京には走ってて多摩地区を東西に貫きます。国分寺と立川の間に国立というところがあります。国立の北口にあるのが鉄道総研です。今日が公開日であるのを知ったので早起きして見学してきました。特定の分野に造詣の深い方(おれもちょっとそうなんすが)がけっこう多かったです。
超電導のこと]

リニアモーターカーの最初の実験車両です。鉄道総研はJRの基礎技術の開発センターで、鉄道とその周辺分野の基礎研究をしています。基礎に限らず最近だとJR北海道の特急のディーゼルエンジンの噴射装置の事故において、一部部品の金属疲労について解明しています。

超電導のデモンストレーションもしていて、そもそも超伝導ってなによというと、金属や合金を一定の温度以下にする(具体的に書くとマイナス296度にするために液体ヘリウムを使用)と電気抵抗が無くなり(この状態を超電導という)、

超電導状態となったコイル(超電導コイル)に一度電流を流すと電流は永久に流れ続けて強力な磁石(超電導磁石)となり、その磁力で浮上します。超電導磁石をN極とS極が交互に配置するように車体にくっつけ、走行路というかガイドウェイに「推進コイル」を取り付け、コイルに電流を流すことで発生する磁界の間で、N極とS極の引き合う力と、N極どうし・S極どうしの反発する力が発生するのでそれを利用しながらうまいことずずずずずずーっと進んでくのがリニアモーターカーの基本的なところなんすが、判りにくかったらごめんなさい

とりあえず「特殊な金属を低温にして電気を流して磁石にしてその磁石でリニアモーターカーは動く!」と覚えていただければ。あとちゃんと書いておくと、大きな声では言えませんが悲しいかなけっこう電気を喰うので、改良の余地はまだ残念ながらあります。
[レール・パンタグラフ
鉄道というのはレールが必要です。

レール締結部分なんすが、道具を使って簡単に締めることができます(やった)。

さてさきほどJR各社の研究機能を持ってると書きましたが、レールの締結装置の研究というのもメニューのひとつです。けっこう奥が深くてたとえば地震対策などに結びつきます。仮に直下型地震がきて脱輪しながら走行し、ボルト等が破損した場合にも、

↑締結装置とはまた別にレールの転倒を防止するための器具を設置することにより、レールそのものの転倒を防ぎなるべく車体が軌道から大きく逸脱することがないように、というようにしています。

金属疲労の実験装置というのもあって、締結装置に負荷をかけ続けて実用に耐えうるかという実験が総研で行われています。地味なんすが大切な実験であります。

パンタグラフの総合試験装置です。耐久性試験・通電試験などにつかわれるもの。

パンタグラフの上なんてのは写真が滅多にとれませんから、一枚。集電部分は炭素を含む金属をつかっています。
[風洞実験装置]
具体的な車両の設計は各車両メーカーと鉄道会社が仕様を決定しますが、総研では各車両メーカーや鉄道会社が担当しない基礎的なものを研究してらっしゃいます。

ゲーム用に改装してあったのですが風洞実験装置があって高速走行時の空力騒音や空気抵抗の低減の研究がおこなわれてます。

外にはひっそりと木型がおかれていて、担当の方からお話をお伺いすることができました。
[降雨実験装置]
さきほど鉄道とその周辺分野の基礎研究とかきましたが、土木も範疇に入ります

ブラタモリでも触れられてましたが大型降雨実験装置があります。

最大時間雨量200mm/hまでの雨を人工的に降らせることができ、大雨のときの斜面の崩壊の実験やセンサーの降雨下における性能評価に使用されます。

雨が降るところは見学しなかったのですが、どうなってるのかなあとつい上をみちまいました。
[Hi!-tram]
いちばんのメインディッシュというか見学の目的がHi!-tramというリチウムイオン蓄電池を搭載してるハイブリッド路面電車です。実は開発者の方のぷち講演会も拝聴してまいりました。

電車の場合、ブレーキをかけたいときに普通のブレーキのほか、モーターを発電機として作用させ(自転車でライトをつけたときペダルが重くなるのにちかいといえばいいかな)、(自転車の場合ダイナモで生まれた電力がライトで消費されますが)発生した電力を架線に戻し、ほかの電車が使えるようにする回生ブレーキシステムがあります。文字通り電力を回生、再利用することができますが回生ブレーキは欠点がありまして、回生電力が消費されないとブレーキが利かなくなります(これを俗に回生失効といいます)。すぐそばに電車が走ってるような地下鉄や阪神電車など列車密度の高いところなら最適です。そうでないときはちょっとだけ厄介です。その回生ブレーキシステムで発電したエネルギーを架線に戻すことが適当でないときはリチウムイオン蓄電池に蓄えられないか、というのを実現したのがこのHi!-tramです。また蓄電池を載せてるので1分の急速充電ののち架線レス区間の4キロの連続走行が可能です。フルバッテリー状態にしてすると鉄道線で50km、軌道(路面電車)線では25km走行できます。講演会を聴くまで気にしてなかったのですが架線のメンテナンスというのがけっこうかかるので、場所によっては急速充電式の電源を各駅に作っておき、そこで停車・充電しながら走らせた方が環境にやさしい・低コストではないか、という目論見が根っこにあるようです(もっともリチウムイオンの製造コストを含めるとどうよ?という疑問も講演会では出てたんすが)。また路面電車と郊外鉄道両方につかえるのでどうも路面電車と郊外線の直通用としての活用を視野に入れてるそうです。

充電の方式は架線からです。もちろん普通の路面電車としての運用も可能です。低床式路面電車なのでスペース的に床下が厳しいのか蓄電池は車内にあり、残念ながらそこそこスペースをとっていました。
まだ試験段階ですが総研の外へ出してて予讃線多度津⇔坂出で時速80キロ走行実験をし、架線のない高徳線を高松から屋島まで往復19km走行し、冬に札幌市交通局へ持って行きススキノから西4丁目まで走行しています。質疑応答のときに質問したのですが、冬場は蓄電池の性能が低下するのでやはり蓄電池を積み増ししたのだとか。技術の進歩を待ちたいところです。でもって質疑応答のときに私も含め、蓄電池に質問が集中してたのですが耐用年数は最初は7年半くらいしかなかったけどなんとか8年程度(8年で鉄道車両は全般検査というオーバーホールをする)を目指し、クリアしてるようで。

午後にちょっと用があったので長居はしなかったのですが、地味なんだけど日頃知らない世界を垣間見て刺激になったのと、もうちょっとで手に届きそうな未来がそこにあって、興味深かったです。