会社というのはどこでも帳簿をつけてます。帳簿というのは現金出納や取引の記録なわけですが、それによって経営成績や財政状況がわかります。その帳簿をもとに計算書類を作って銀行にだしたりします。計算書類を見て、銀行は融資を判断することもあるからです。で、決算を前に、売り上げを前年比プラスにしとかないとまずいのに前年比マイナスのとき、決算期末の月の翌月分の(来期の売り上げになるはずの)入金確実なものを売掛金として処理・先食いしちまうことがあります。すくなくとも前年比マイナスにならずにその場はしのげます。先食いのあと、次の年の売上が非常に良くて先食いしたぶんをカバーできればこの程度のことはばれません。悲劇は次の年にうまくいかなかったときに起きます。対外的にプラスにしておきたいのに続けて前年比マイナスのときは、去年以上の額を入金確実なものを売掛金に入れておくか、渋い顔をされるのを覚悟の上で正直に成績が悪かったことを書くか、現実の入金はあり得ないけど売掛金をでっちあげ売り上げをごまかすか、です。成績がよくなかったら、銀行は渋い顔をします。あたらしい機械を買いたいからといってもそうは融資をしてくれないかもしれません。でっちあげてもいいのですが、現実のお金の流れと乖離します。そうなってくると大変です。現実のお金の流れと架空のお金の流れの二つを把握しなければなりません。悲しいかな私のような頭の悪い人間にはできない芸当です。

岡山に林原という会社があります。先週、会社更生法を申請し倒産しました。昭和の終わりころから先日まで売掛金をつかって架空の売り上げを計上して不正に経理を操作して、簿外債務があったにもかかわらず表に出さず、銀行側が態度を硬化させたのが原因です。林原はもともとは水あめ屋さんでしたが研究費にかなりの資金を投入することで有名で、甘味料やがん患者に投与されるインターフェロンを今は製造してます。いちばん有名なのは菓子に使われるトレハロースという甘さ控えめの甘味料で、そのトレハロースの基本特許を持ってるうえにトレハロースを菓子業界や全国の和菓子屋さんに供給して、さらに周辺の特許をかたっぱしから買い取って押さえてるので、日本の甘みを左右してる会社です。インターフェロンもトレハロースもそこそこ売り上げがありますし、誰もが大丈夫な会社、と考えて銀行も信用してました。なんのことはない、信用してたのは会社側が現実と異なる資金の流れを基にしながら誰も疑問を抱かない計算書類を作成し、なおかつ銀行ごとに違う計算書類を渡してて、各行とも20年以上まったく気が付かなかったのです。ここまでくるとあっぱれです。


経営陣が率先して計算書類をごまかしてけっこうな期間、銀行をだまして融資を引き出してたのですから、それだけ考えるとほんとは褒められるべきことではありません。歴史にifは禁物ですが、でももし本来の計算書類を銀行に提出してたら研究費を湯水のように使うこともできず、インターフェロンの改良やトレハロースの開発も無理だったでしょう。最近、コンプライアンス・法令順守という言葉を耳にするのですが、ほんとにそれでいいんかなあ、ってなことをちょっとだけ考えちまったんすが。
ここらへん社会人失格かもしれませんが、きれいごとだけではどこか世の中進歩しないんじゃないかなあ、って思っちまうのです。