九州の商業の中心の福岡市から鹿児島線を東進すれば新日鉄八幡と住金小倉を擁する鉄の街として北九州市があり、北九州市から日豊線を南下すれば苅田(日産)、中津(ダイハツ)の自動車工場のある街をへて新日鉄の工場がある大分と続き、博多から西へ進めば造船工場のある長崎と佐世保があります。けっこう日本経済で欠かせない企業が九州には多く立地しますし太平洋ベルト地帯の西端で都市間では相互にわりと往来があります。ですが国鉄の分割民営化のときに、九州の鉄道は自立できないだろう、ということで経営安定化基金というのを交付されました。もう国は面倒見切れない、九州の鉄道は永遠に黒字にならないはずだから基金を運用して利息で赤字を埋めてね、っていう手切れ金のようなものです(四国と北海道も同じ基金を持ってます)。事実、鉄道事業だけでなかなか黒字にするのが難しいようで基金の利息でもって補填することが多いです。黒字化がなんで難しいかといえば本州に比べて九州の経済規模が小さく、ローカル線が多いってのもありますが、九州特有の事情として高速バスとの競合があります。高速バスが九州では発達してて鉄道より便利です。福岡市の中心部に天神三越の中にバスセンターがありまして、そこからバスが九州各地へ頻繁にでてゆくのですがその便数が半端じゃない。北九州へは5分から10分おき、熊本や長崎や佐賀や大分へは15分から20分おきにでてます。この高速バスが運賃のほかに特急料金がとれる特急ともろに競合するわけです。高速バスにかなわない面もあるものの、高速バス対策として座して死すよりは、ってんでダイヤをいじったり格安の切符を企画したりしたのですが、JR九州が一味ちがったのは車両のデザインを見直したのです。外部から水戸岡さんというデザイナーをよんで「乗ること自体を目的とするような」電車のデザインを任せました。
その答えのひとつがこれ。

水戸岡さんがJR九州にかかわるようになってそれほど経ってない90年代に手がけたデザインです。この車両はもとは国鉄時代に作った新車でもない特急車なんすけど真っ赤な車体に塗り替えました。「乗ること自体を目的とするような」デザインかどうかはともかく、ちょっと派手ですが注目されやすくなり「特別な乗り物≒赤い特急」の存在をわからせるに充分でした。攻撃的な色使いですから青空の下の奥深い緑の中でももちろん駅でも強烈な印象をあたえます。かつては高速バスとの競合の激しい長崎方面ゆきかもめ号にこの車を投入し「赤いかもめ」というニックネームもつけて運用してました。長崎へは「赤いかもめ」が雁行してたわけです。念のため申し添えるといまこの車は宮崎中心の運用で、長崎行きのかもめはいま「白いかもめ」があとを継いで雁行してます。


どこか派手な色使いの大丸のメンズインナーのディスプレイや挑発的・攻撃的な男性肌着の通販のサイトを見ててこの九州の特急のことをなんとなく連想したのですが、生存競争が激しいとき・必死なとき・振り向いて欲しいとき・相手をひきつけるたいときは派手な色をみにまとうことってしがちなんじゃないかと思うのです。なんのことはない、記憶に残しておいて欲しいからです。
そういえばオシドリという鳥がいるのですが、オスだけ繁殖期には派手な体色になります。そのオスの派手な体色は、競争が激しい中で相手をひきつけるためなんすよね。振り向いて欲しいときに派手なものをまとうのは、どこか本能のようなものなのではないか、とおもったり。