共謀共同正犯というのがあります。組織的な犯罪で首謀者を処罰するのが目的です。ある犯罪をあらかじめ実行者と謀議しているときにはその実行行為に加わっていなくても、実行者と同じ罪に問われるとの法理論です。親分に命令された子分が犯罪をしでかしたとき、うしろで指図した親分と犯罪実行者である子分を一心同体とみなし、共同正犯として罰しようという考え方です。ただ、これ刑法に明文上の規定はありません。刑法60条には共同正犯は「2人以上共同して犯罪を実行」することとあるので、条文からすればほんとはできません。その点を捉えて批判が多いところでした。でも裁判例の積み重ねのなかで、解釈として定着しています。ちなみに過去にあった事例ですが謀議で強姦を指図した女親分がいたとしてその実行を子分の男がしたときにやはり共謀共同正犯が成立するんすけど、加害者が女性で被害者も女性の強姦罪?なんていうことも成り立ちます。法律を学んだ人間ってえてしてそういう結論を導き出すこともあります。感覚的に変、と思われるかもしれませんけど、法学部の教育を受けてきた人間は別に変じゃなかったりします。



なくなった元社長は奥さんに多額の保険金をかけ、アメリカへゆき、ロスで事件が起こりました。誰だかわからないけど奥さんは撃たれて死亡して側にいた元社長は負傷してます。その後、元社長は実行犯と共謀した共同正犯として日本の警察に逮捕され起訴されたのですが共犯者も含め完全否認していました。一審ではその実行犯は無罪で、でも自白すらしてない元社長は(前に元社長は別の人と共謀して奥さんを殺害しようとし有罪となった過去はありますし、どうも状況証拠的には、っていうところもあったみたいで)有罪となります。しかし共同共謀正犯であるにもかかわらず、実行犯が無罪で、なんでうしろにいた元社長は否認してるのに有罪なの?ってのはちょっと無茶が有ったと思います。
で、そのあと検察は(最初に捕まえた実行犯が無罪なので)元社長の共謀者を「氏名不詳者」として、つまり実行犯が誰だかわからぬままその誰かと共謀した共同正犯として殺人罪に問い、上級審で争います。でもさすがに高裁(最高裁も支持)は元社長を無罪と判断しました。氏名不詳者との共謀ってのは、どこか無理があったのかもしれません。ただ状況証拠等から検察側が元社長を疑うことに一定の理解を示してはいて、でも「疑わしきは被告の利益に」の原則に従った判決となりました。


法学なりなんなりをやった人間からすると裁判所の結論は理解できないわけではないのですが、どこかもやもやしてるのは刑事裁判が共謀者氏名不詳という不思議なかたちで進行し、自白もなく、謎の部分が多すぎ、不完全なまますべて終わってしまったからでしょう。元社長が絡んだ事件が報道されてたころは私は子供でした。だから元社長の事件を詳しくは知りません。でもなんかひどく世の中を騒がせた事件らしい、ってことはテレビを観てるとなんとなくわかります。
真実がどうであったのかわからぬままで、こうなった以上は迷宮入りしてしまうわけっすけども。
不謹慎ながら解決編がないまま幕が下りてしまった感があるのは、ミステリの読みすぎかもしれません。