目の話(ちょっと暗め)

なんで鉄道に興味を持ったかといえば、大きくても動くのがわかるからです。コンタクトがあればなんとかなりますが私は眼はあまりよいほうではありません。小さい頃のテレビの記憶なんてものはほとんどなくって、音は覚えてても画像なんかはあまり覚えてません。覚えてなくてあたりまえで、よく見えてなかったわけですからはっきりなんか覚えてない。メガネのない段階で判ったのは鉄道ぐらいだったわけです。たぶん。そうすると、そっちへ興味が湧いた。


目が悪いことをかかりつけの医者や母親が気がついたのはいつのことだか知りません。うまれつきか、病気によるものかとかも知りません。後から聞いた話だと幾つかの大病院にゆき、ある国立病院でなんでこんなになるまでかかりつけの医者はほっといたのか!ってなことを母は言われたらしい。けどそんな大人の事情と関係なんかはなくって、そもそも私はうまれつきぼやけた世界があたりまえでした。メガネを買ったのは小学生低学年で、そのとき、うわあ世の中ってこんなに鮮明なんだ、ってのがわかった。この驚き、他人に判ってもらえるかどうかわかりませんが、全てが鮮明になり、それまでどこかぼやけてた電車もはっきりみえたし花とか空とか雪とかものっそクリアで綺麗だったんすよ。で、本と単純なんすけど絵を描くようになったし、カメラをお年玉で買ったんすね。綺麗で鮮明である世界を描こう写そう、ってなことを考えた。大して巧くはなりませんでしたが。
でも、小学生のころ、はじめての挫折を味わいます。鉄道が好きだったからほんとは近鉄特急の運転手に成りたかったのですが目が悪いと運転手になれないとうっすらわかった。ショックは大きかったです。でもそれを親に言うのはまずい、なんて考えてました。たぶん一度も云ったことがありません。目が悪いことを気づかなかった母親がそのことを気に病んでるのは子供心に判ってたからです。で、小学生の頃から、理不尽なことがあるとかあきらめってのをどこか知ってましたし、他人に対して自分の希望を云ったところでそれが叶うとは限らないってことにうっすら気がついてたわけです。自分の希望をなかなか云えないのと、素直じゃないのはここらへんからかも。


目が悪くなる、という理由で一切ゲーム類は買ってもらえませんでした。ですからファイナルファンタジースーパーマリオも知りません。自室にテレビもないのでアニメもあまり見てません。あまり羨ましいとも思わなかった。そりゃそうです、せっかく鮮明な世界を手に入れたのに、自分から放棄するような馬鹿はいません。欲しいとも思わなかった。そのかわりあまりお金のない家だったんすけど公立の小学生の頃から近所の私学の学校に出入りして美術の先生の下で絵を描いていました。月謝がいくらぐらいしたのかもわかりませんしひょっとしたらタダだったのか、そこらへんはわかりません。でもこの先生にはいろんなことを叩き込まれましたし、特に「世の中に絵具の色そのままのものなんかある?欲しい色は自分で作り出すもの」っていう言葉は未だ忘れてません。なんとかしたかったら工夫しろ自分で考えろ、ってこと。この言葉はけっこう影響を受けました。20代でちょっと大変な時期があったのですが、自分で調べて考えて動く、なんてことをできたのは、たぶんこの先生の言葉があったからっす。もっとも、上野の美術館の展覧会に出品したり新聞社の賞を貰ったりはしたものの(絵具は捨ててもトロフィとかたてとか賞状は未だ捨てられなかったりします)、その道では食えないと考え美術系には進みませんでしたけど。


目が悪いことで悲観したことって、それほどありません。近鉄の件だけ。
何度か引用してますが聖書にコリント人への第一の手紙というのがあって
「あなた方の会った試練で、世の常でないものはない。神は真実である。あなた方を耐えられないような試練に会わせる事はないばかりか、試練と同じにそれに耐えられるように、のがれる道も備えて下さるのである」
という一節があってこれを知ったとき、ほんとにそうだよなー、と思ったのです。
目が悪いってことは試練なんでしょう。でもそのかわりちゃんと道はあって、何の因果か絵を描くようになったり、そこで生き方を左右するような言葉を知ったり、ってことがありました。ほかにはたから見て試練と思えることってあって、その後付き合うことになる相手から手を差し伸べられたりもしたし、かなり歳の離れてる人から親身にアドバイスをもらって、なんてことを経てきました。
目のことは母親はけっこう気にしてますが、まだ幸いなことに(メガネコンタクトを使えば)目は見えてます。たぶん耐えられるようにのがれる道ってのを見逃さないようにまだ神様が配慮してくれてるのかなーとかたまにおもうんすけども。


悲観して目を覆ってたら、その道すら見えないっすよね?
私はなんて不幸なのか、などと悲観して嘆いて身をよじってなんて、絶対出来ないっす。