血は流れないけど

あ、道を間違えた、と気がついたときのショックというのは一瞬血の気が引くような、そういう感じのときがあります。労した時間を考えるとちょっとしんどいな、と思えるのです。地図があることならかまやしないのですが、そうじゃないとどこまでさかのぼれば良いのかがわからない。リアルの道路なら歩いて戻れることはできるけど、流れた時間は巻き戻りません。


最初はそんなつもりじゃなかったの、というとラブホに連れ込まれてついいたしてしまった女の子みたいだけど、ほんとにそういうふうになるとは思ってなくて、名刺を渡されたときに、あ、なんだかこの人となら居たら楽しそうかな?というのがあった。御しやすいと思われてた可能性もあるけど複数回一緒に話して、何度目かのアルコールの入ったある夜、先方がシグナルのようなものをだして、それに乗っかったほうが良いのだろうか、とか深く考えずにいて、相手の身体を撫でながら仕掛けられたキスで歯列をなぞってやわらかい舌を吸うと先方から吐息がなんどか漏れ、そこらへんから火がすこしついた。風呂上りに率先して上半身をやさしく攻撃したあと、毛がある部分の中身はどこがいいのかわからなかったので丁寧に探した記憶があります。そのあとそのときなんでそんなことをしたのか覚えてないけど自分からわざと性感帯を教えて痴態をみせたりしたし、たぶんもっと感じるんじゃない?とタオルで目隠ししてみたりとかしたのですけど。

ひょっとしたら、それがいけなかったのか。



酸いも甘いも噛み分けてもないし、東北人じゃないけど器用でないことを自覚はしてます。ただ、繊細じゃないと思いたいし、そもそもほんとは強いはず。
はずなのに。
その夜帰り道に電車からの夜景をみて脈絡もなく思い出したのはさっきまで居た相手ととは違うかつて時計をくれた相手が抱いてくれた記憶であったりキスの記憶やあたたかい食事の記憶で、それらのせいかどこか悲しくなってる自分が居て、動揺している自分に気づきました。



さらに追い討ちをかけるように下車駅につく前、抱いた相手からメールが来る。その末尾に、ひとこと
「今度逢うときは別のこと試したい」
それみて、俺、なにやってんだろう、と思った。
と、同時に、なんだか道を間違ってしまったことだけは自覚しました。メール見て軽く自己嫌悪におちいって、どっと疲れが肩に出た。時間も巻きもどせるなら巻きもどしてやり直したいけど、できない相談です。
他人と肌を重ねることは嫌いじゃないし、したくなかった、といったら嘘になるけど、ほんとはもっとあなたの考えてることと別のことしたいよ?
よほどそういう文面のメールを送ろうか?と思ったけど諦めた。逢いたいんじゃなくてヤリたいだけの人間に思われたのがちょっとショックだったんすけど。



何で意思が合致してなくてもセックスなんてするんですかね?
はじめてじゃないし、男だから処女膜もないし血が流れはしないけど、血のようになんだか別の大事なものが擦り切れて流れていく気が、たまにします。