再婚禁止期間短縮の話

再婚禁止期間短縮、公明党PTが容認 法相は慎重姿勢


「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子」と推定する民法の見直しを進める公明党プロジェクトチーム(PT)は23日、女性の再婚禁止期間の短縮を特例新法に盛り込む自民党PTの方針について、「与党で合意できるならやっていきたい」として容認する方針を示した。来週の与党責任者会議で了承されれば、与党PTで議員立法に向けた動きが始まる。
自民党PT案は、女性の再婚を禁じる期間を現行法の「6カ月」から「100日」に短縮する内容。公明党PTはこれまで、「様々な意見がある議論を盛り込むことで、結論が遅くなる」として、300日問題とは別の機会に議論すべきだとの姿勢を示していた。
一方、長勢法相は23日の閣議後会見で、再婚禁止期間短縮について「そんなに大多数の皆さんがそうしろという雰囲気ではないのではないか」と慎重な姿勢を示した。
2007年03月24日付asahi.com より転載

民法
第733条 女は、前婚の解消又取消の日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
第772条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。


民法733条というのが有ります。
父親は誰か?というテーマに関係します。
現行法では男性は配偶者と離婚した次の日から再婚が可能なんですが女性はできません。離婚から6ヶ月を経過した後でなければまずいのです。もっとも離婚成立前から妊娠していた場合や離婚成立後6ヶ月以内に出産した場合には生まれた子の父親が前夫であると推定されるため、出産後はいつでも再婚することができます。 ここらへんいま問題になってる772条の絡みですが現行民法では離婚(えっと、死別ってのもありえます)の日から300日以内に生まれた子は前夫の子と推定され、再婚の日から200日を経過した後に生まれた子は、再婚した夫の子と推定されます。


(ぐぐってるかたがいるみたいなので現行法の復習→1月10日に離婚して再婚可能となるのは7月10日以降、また11月6日までに生まれた子は前の夫の子です。離婚後再婚前に妊娠してもそうなります。で、この事例の場合に7月10日に再婚して200日以内で出産した場合に11月6日までの子は前の夫の子ですが、11月10日にうまれた子は当然には後の夫の子では無いけど200日が経過してなくても市役所に再婚した夫に出生届を「父届出」として出してもらえばそれにより民法上の認知行為がされたとして嫡出子として戸籍に記載されます。父親の認知があるので嫡出子なのですが、可能性としてもしかしたら父親の子供ではないかも、と法律上みなされます。なお出生が離婚から300日経過していれば、少なくとも前夫の戸籍には入りません)


この733条と772条がないと、女性が離婚後すぐに再婚して子が生まれた場合、可能性として生まれてきた子が前夫の子、再婚した夫の子、どちらにも推定されちまいます。再婚禁止期間を設けることによって前婚と後婚の推定期間を重ならないようにするために意義がありました。子の父親が分からないという事態を避けることができます(この部分話をややこしくしないために婚姻期間中は夫以外とセックスはしていないという前提です)。前にも書いたのですが6ヶ月というのは民法制定時の明治時代において、もしくは戦後すぐはいまほど鑑定技術が無かったはずで、女性が外観上妊娠しているのがわかるには6ヶ月あればなんぼなんでも判るだろう、という趣旨です。今回はこれを100日にしよう、というはなしです。


100日に短縮というのは、民法772条に関係してきます。説明がくどいかもですが間違いをしたくないのでお付き合いください。
民法772条は、1項で婚姻中に懐胎すると夫の子であると推定されるとしていますが婚姻届を出してすぐに出産したとしても、婚姻中に懐胎したというのは難しいでしょう。それが夫の子です、とは事情を知らない場合に誰もが納得しないはずなのです。で、2項において、婚姻中の懐胎とするためには原則として出産から200日前に婚姻が成立していなければならないとしています。
また離婚届を出した数日後に出産した場合には、再婚相手の子を懐胎してない可能性が高い(建前として貞操を守る義務が夫婦にはあるはず、というのが民法の世界です)。で、2項ではもうひとつ、婚姻解消から300日以内に生まれた子は、離婚前の婚姻中に懐胎したものと推定するとしています。
仮に再婚禁止期間をやめてしまって離婚直後に再婚が可能とすると772条を残した場合に離婚後300日以内で、再婚成立200日以降の子が生まれる可能性があります。1月10日離婚、1月15日再婚、10月25日出産といった場合などです。父が誰だか判らなくなる。それは避けたい。再婚禁止期間はやはり必要で、ただ計算上再婚禁止期間は6ヶ月もいらず、100日あればいいことになります。それを追求したことにすぎません。離婚後101日目に再婚した場合、離婚後300日が経過して婚姻後200日目がやってきます。1月10日に離婚して5月1日以降に再婚可能として、11月6日以降の子は後の夫、それ以前は前の夫とすればいいわけです。



なお、前からこの再婚禁止期間については議論がありました。女性だけなぜ再婚に制限があるのか、憲法違反じゃないかというものです。民法第733条は憲法第13条(個人の尊重・幸福追求権)、14条1項(法の下の平等)などに違反するのではないか、という点です。で、最高裁は「合理的根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法14条1項に違反するものではなく、民法733条の元来の立法趣旨が、父性の推定の回復を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解される」「女性のみが懐胎するという生理的な理由に基づき立法されたものであり、父子関係の確定の困難を避けることを趣旨とするものと解され、医学の進歩によって、妊娠の事実や父子関係の確定に関する科学的な技術等が進歩していることを前提としても、この6ヶ月間という再婚禁止期間に、明白な合理性がないとまで判断することはできない」とし、憲法違反とまではいかないとしています(最三小判平成7年12月5日判例時報1563号81頁)。

 
再婚禁止期間に道徳的な意味を持たせようとすれば100日に短縮することに反対する立場を取ることもできます。また100日では、一般人の目からは(妊娠検査薬があるとはいえ)懐胎の有無を確実に外観からは判断できないし、という批判も可能です。私は道徳的ではないですが、外観からでは妊娠が判断できないという点で100日に短縮するのはいかがなものかと思ってます。
なお、しつこいようですが民法の嫡出推定は生物学的な父親を特定するためというより、子の権利保護の目的がかなり強くあります。それを忘れるとなんか女性に厳しく理不尽に思えてくるかもですが原則子供が不利益をこうむるべきでない、父親が誰だか判らない状況を避けるべきだ、という判断が働いてます。また、父子関係においてDNA鑑定がどうこう、という議論がありますが人工授精の方面から生物学的な父親と法律上の父親は一致しないこともあるわけでちょっと適当だとは思わなかったりします。