『カリスマ』

カリスマ

カリスマ


ダイエーを知らない日本人はいないと思います。今でこそ産業再生機構を経て丸紅主導で再建途上の会社ですが、かつてはスーパー業界売上高日本一の企業であり、福岡ダイエーホークスのオーナー企業でありました。この本はそのダイエーの創業者中内オーナーの一代記です。研究書ではありませんが、かといってヨイショな内容ではなく、ある種の哀れみも感じた上で批判的に書かれています。また、ダイエーの成長と戦後経済成長を重ね合わせて書き、ダイエーがなぜ成長したのか、また停滞してしまったのか、を分析した本です。第二次大戦中のフィリピンでの軍隊体験によって身に付いた人間不信から発生して、それが激しい攻撃性となって常に「良いものをどんどん安く」と題目を唱えてメーカーとの軋轢を怖れぬ態度をとってダイエーを拡大させたわけですが(松下電器ダイエーが抗争状態にあったのを私はこの本を読むまで知りませんでした)、その人間不信ゆえに実の弟を信じることもできず、また部下に裏切られることを恐れ優秀な人材がダイエーでは疎んじられてたことが書かれています。また抜群の成績を上げたわけでもない長男を経営の中枢に連れてきたりや、刎頸の友の枝肉商との癒着、財テクなどの公私混同もキチンと触れられています。キャベツを廉売して買い物籠を重くして、という、西友との「赤羽戦争」などの輝かしい戦史なども載ってます。
なかなか強烈なのが引退前のあるときにダイエー店内を巡回する中内オーナーの描写です。目黒や博多の店での発言が載ってますが、パック詰めされた大量のクレソンを前に「君んちでは客に大量のクレソンを喰わすんか!」となじったり、弁当売り場に茶が置いてないことを見つけて「君は茶も飲まずに弁当喰うのか!」と批難する場面があります。自らダイエーを創設して拡大を続けるなかで中央集権的システムや軍隊式の上意下達のシステムを緻密に作り上げながらも(名誉のために申し添えると阪神大震災のときは役に立ったようですが)全く商売上は客を見てない人材が増えてしまい有意義には機能してなかったことの証明になるとおもいます。組織って何だろう、と思わせられました。
「高い」と思われるものを安くする、「良いものをどんどん安く」「フォア ザ カスタマーズ」の考え方は、間違ってはいなかったとおもいます。たぶんこの人がいなければ、日本にはスーパーマーケットは根付かなかったでしょう。
私はダイエーの興亡を「おごれる者は久しからず」なんて一言で片づける気にはなりませんが、どんな富と権力も必ず滅びるときが来るという万物流転の法則から抜け出すことってやはり難しいのかも、という感じを受けました。この本を読む限り中内オーナーは人間的魅力が無いわけではないし、カリスマでもあったのですが、万物流転の法則は強烈な個人の個性の力をもってしても逃れられることができないのかも知れません。
分厚い本ですが読み物として一読の価値はあります。お暇な方は是非一読を。