宇和島の病院の事件

宇和島の生体間臓器移植の問題です 

病気腎移植を黙認、3件はがん…宇和島T病院長ら

 病気のため摘出した腎臓を別の患者に移植していた問題が明るみに出た宇和島T病院(愛媛県宇和島市)で4日、S院長と執刀医で泌尿器科部長の医師が問題発覚後初めて記者会見した。

 院長は「社会的に許されないかもしれないが、これまで行った11件とも成功している。執刀医の先生に任せており、(病気腎移植だったことは)後から聞いて、ある程度知っていた」と述べ、事実上、同病院が黙認していたことを認めた。

 院長の説明では、病気腎の移植は、2004年9月から06年9月の間に行われ、摘出した腎臓の内訳は〈1〉尿管狭さく3件〈2〉腎臓がん3件〈3〉動脈瘤(りゅう)2件〈4〉良性腫瘍(しゅよう)2件〈5〉ネフローゼ1件――だったとした。

 同病院以外で摘出手術が行われたのは5件で、残りは院内で実施した。1件を除いて、すべて親族外だったとした。

 腎臓を移植に使うことに関して提供者の同意があったかどうかについて、院長は「外部で摘出した5件のうち、文書で同意をとっているのは3件」と説明、ほかの8件では同意書がないことを明らかにした。提供を受ける患者側に対する同意文書については執刀医が「ない」と(証言)した。

 日本移植学会の倫理指針が規定していない病気腎の移植手術を行ったことについて、執刀医は「患者からの要望もあり、切羽詰まった状態だった。病気の腎臓でも待っている患者を助けたかった」と話した。

 移植を受ける患者には「年齢や病歴を十分説明している」とし、腎臓を摘出された患者からは「よそで使えるならと納得してもらった」と改めて強調した。


2006年11月4日YOMIURI ONLINEより転載

生体移植では親族間での移植はオッケイですが、今回の他人間の件については法律に規定も無く、臓器移植法には臓器売買と無許可あっせんの禁止以外に規定がなく、また日本移植学会の倫理指針にも法的拘束力はありません(臓器移植ネット、という組織がありますが、これは心停止後の臓器移植を管轄する団体です)。
こうした状況が今回の移植の背景にあります。病気の患者から摘出した腎臓を他の患者に移植していたわけですが、緊急に腎臓がいる場合、たとえ病気の腎臓でも構わないというのだという論法のようです。移植される本人も納得していたということですが書面には残して無いと。多少心配なのは、がん等腫瘍がある患者からの摘出を行い、その臓器を移植に使ったという点です。素人考えですが、えっと、移植手術後に免疫抑制剤をたしか使うはずで、移植されたほうはがんの発生率が多少高くなるものと思われます。



摘出された患者側にとって、はたして腎臓摘出に必然性があったか否か、移植について同意が取れていたか、という問題があります。仮にその腎臓に他人の臓器提供が可能なくらいの病気の危険性がないものならば果たして摘出したことが正しかったのかと疑問に思うのです。当然、術中に摘出する必要がないと判断された摘出した腎臓を患者の身体に戻すことが考慮されず、結果として摘出された患者が臓器を失った場合、医師による摘出行為が刑法の傷害罪にあたる可能性も考えられると私はおもいます。



過去の医療過誤の裁判例からみると患者の承諾や同意を得た医療行為であっても、医療水準を基準にしてある程度の注意義務違反が存在し、患者の生命や身体に重篤な結果が生じれば、医師の裁量権の逸脱として違法行為となりえるでしょう。民事上、刑事上の責任が問われるとおもいます。正直今の段階で、また、詳細がわからない段階で専門家でないものが検討をくわえるのはまちがってる気がしますが、少なくとも「ある程度の注意義務違反」を欠いている気がしてなりません。



以前より患者の自己決定権が声高に主張されてはいますが、たぶん、医療の現場において多くの場合、慢性的な病気の進行の度合いによりその病気特有の事情があって基本的な日常生活すら困難をきたすとき、比較的医師と患者は対等な関係になりにくかったりします。患者は医師の専門的、医学的判断に基づく診断、検査、治療法の説明を聞いて、その治療に同意する場合がほとんどでしょう。患者の同意と言っても、実質的には医師の裁量に任せられてるような感じになりかねないとおもいます。せめて今回の件がこのような専断的医療行為によってなされたものではないことを祈るのみです。



患者のわらをも掴みたい切実な要求と、それを敵えてやりたい医師の誠意は理解できなくもないのです。何も命を扱う現場に限った事ではないですけど、ただ、ある程度の倫理や道徳といったものは常に付き纏うはずでして、確かに、きちんとした手順を踏まなかったり、脱法的方法で行ったという事実は医師としては間違っていると私は思います。
もっとも、人としては正しかったのではないか…とはおもいますが。