休みを取って松本の音楽祭にいってました。病後の小澤さんがはたして本とに振るのかな?というのと、体力が千秋楽まで持つのかな?という不安はありましたが、杞憂に終わりました。ただ一度、指揮台から降りるときによろめいたくらいです。今しばらくは安泰なのかもしれません。この音楽祭。

サイトウキネンフェスティバル松本です。
長野県松本文化会館


正面の飾りつけはこんな感じです。



開催期間中、いたるところでサイトウキネンをバックアップしてます。
上の写真は松本駅です。
どうでもいいんですが、寒かったです。山岳都市であることを失念してました。






以下の文章、興味のない人には全然つまらないと思います。

1曲目、武満徹「ディスタンス」。オーボエと笙、演奏者2名だけです。いわゆる現代音楽のジャンルに属する曲です。曲ですから、最初オーボエと最後の笙が同じ音です。わかるようなわからないような、しかし空気まで読めば、ああ、空気も音楽なのか、という曲です。巧く説明できませんけど。

2曲目、ピアニストの内田光子さんとオーケストラによるベートーヴェンピアノ協奏曲第5番「皇帝」です。皇帝という名前はベートーヴェンが付けたわけではないのですが、雄弁というか、スケールがでかいというか、その通称がよくわかる曲です。で、第一楽章のしょっぱなからピアノが華々しかったりするのですが、第二楽章の冒頭を除き抑制とかいっさいなく、ピアノもオケも派手にぶつかり合った、というかんじでした。えっと、伴奏じゃないんですよ、オケが。それが当たり前というかなんというか、本とのあるべき姿なんでしょうけど、丁々発止というか、真剣勝負の取っ組み合いみたいな、といえばわかってもらえるでしょうか。たぶん、オケの中に、ソリストが多いせいかもしれません(オケの主体が、各楽団のコンマスとか主席奏者とか、バリバリにソロで活躍してる人が多い)。


休憩を挟んで後半はショスタコーヴィチ交響曲第5番。旧ソ連共産党機関紙で作風を非難されたロシアの作曲家ショスタコーヴィチが、その批判の後に発表したのがこの第5番で、ソ連時代は社会主義の勝利を明快に表現した作品として評価されてました。
くらーい、悲劇的な第一楽章からはじまり、不気味なまま頂点に一度持ってゆき、軽快な独奏のバイオリンが印象的な第二楽章、不安というか恐怖というか苦悩を想起させる第三楽章、炸裂する金管楽器や打楽器により再度登りつめ、で、第四楽章の最後に明るい終わり方をします。ともかくわざとらしい明るさの第四楽章の最後の手前まで、どこか暗い、なんとなく悲しげな交響曲です。
正直、かなり暗い曲です。小澤さんらしくけっこう抑制が効くべきところは効いてて、激しいところはかなり激しいのですけど、不覚にも私は第一楽章の途中で一瞬自分の過去を思い出してしまい涙が出ました(暗い過去があるわけではなくて、悲しい感じがシンクロしたのでしょうか)。サイトウキネンだから当たり前ですが、それくらい表現力というか、凄みというか説得力というか、何が伝えたいかが思いっきりでていましたし、異様な緊張は客席にもありました。

曲の終了後のカーテンコールがすごかったです。4回ほど呼び戻されてました。ついでに拍手もいつの間にか手拍子に自然に変わっていました。
私はこの曲をムスティスラフ・ロストロポーヴィチ盤で聴いて、新日本フィルの定期も聴きにいったのですが、今回のは壮絶だった気がします。テレビカメラが入ってたのと、録音マイクも入ってたのでたぶん、そのうちNHKあたりで流れるでしょうし、CDも発売されるでしょう。そのときは是非聴かれることをお薦めします。