理不尽

危険運転致死傷)
刑法第208条の2
アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で四輪以上の自動車を走行させ、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。その進行を制御することが困難な高速度で、又はその進行を制御する技能を有しないで四輪以上の自動車を走行させ、よって人を死傷させた者も、同様とする。
2 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、前項と同様とする。赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で四輪以上の自動車を運転し、よって人を死傷させた者も、同様とする。
(業務上過失致死傷等)
刑法第211条
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2 自動車を運転して前項前段の罪を犯した者は、傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。



たぶん新聞社各社キャンペーンを張っているのかとおもいますが、飲酒運転の事故の報道が多いです。ちょっと前には福岡市で、児童3人が死亡する事件があったばかりですけど。
ご存知の方がいるとは思いますが、交通事故の場合、たぶんこの2つの条文が関係しています。

どこがちがうかというと、刑の重さです。業務上過失致死罪は最高5年で、かたや危険運転致死傷は15年です。この差はどこから来るかというと、かたや注意義務を怠ってしまったという過失によるもので、後者は普通は有りえないはずだから故意(わざと)に近いだろう、という発想です。
条文をよく読んでほしいのですが、危険運転致死のほうは、アルコールや薬物といった言葉があります。片方にはありません。実はここに問題がありまして、例えば酔って運転して事故を起したときに、その場で被害者の救助に当たって警察に捕まるとかすすんで飲酒運転を告白したりすると危険運転致死ですが、その場を逃げてしまってアルコール分を消してから出頭するか、もしくはとんずらしてばれるまでそのままなら、業務上過失致死になってしまいます。逃げた方がお得だったりします。
どんなに危険運転致死で罰したくても、条文で薬物やアルコールと述べているので、危険運転致死の場合加害者がアルコールを呑んでたことやらを立証しなければならない。加害者が逃げてアルコールを抜いてしまうと証拠が隠滅したのと同じで、証拠などで立証が不可能なら業務上過失致死でいかざるを得ないのです。

死刑なんかもそうですが、重い刑を科そうというときには、裁判所は保守的で慎重になります。業務上過失致死のほうより危険運転致死の適用を主張するときにはより慎重になります。付言すると新聞やテレビで報道しても裁判官はそれにはとらわれない原則です。証拠や本人の自白や証言とかがないとダメです。


ものすごく理不尽なんですけどね。


福岡の件は危険運転致死で行くみたいですが、その裁判がうまくいったところで、死んだ児童が戻ってくるわけでもなく、ただ他人としてできることは、単に冥福をお祈りするしかないのですけど。


                         合掌