宮城峡蒸留所見学

いまの会社法はどちらかというと取締役や社長というのは暴走をするという前提にして暴走しないように制度設計がなされています。裏返せば以前はそれほどそういう制度設計ではありませんでした。

スモーキーな良いウィスキーを作るためには大麦をビートと呼ばれる泥炭で燻しながら乾燥させながら麦芽を作る必要があるという理由からニッカウヰスキーは山形との県境に近い仙台の作並の山の中にその設備を作っています。

地上3階建分以上あるキルン棟と呼ばれる建物にある大きな設備で、しかし泥炭で燻した麦芽を海外から輸入した方が採算上よいということになり、数年で使われなくなってしまっていまに至ります。銀行なり大株主なり誰か止めなかったのかな…といまからならなんとでもいえますが、実物を眺め説明を聞くと、会社法を学んだ以上口外しませんが「こういう暴走、なんかいいなあ」と思っちまっています。主導したのは竹鶴さんという方なのですが、よほど魅力的な人物だったのではあるまいか?と想像します…って会社法の話をしたかったわけではなくて。

週末、その竹鶴さんが関与した宮城峡蒸留所を見学していました。

ポットスチルと呼ばれる単式蒸溜器の熱源は宮城峡の場合は蒸気を熱源とする間接加熱で、ニッカのもうひとつの蒸留所の余市は直接加熱です。その結果余市はワイルドな、宮城峡は軽快なモルトウイスキーが出来上がります。蒸留器の上部に注連縄がかかってるのが印象的で、神様に頼らざるを得ない部分があるのかも。

内部は見学できませんが連続式蒸溜の設備もあってなめらかな口当たりのトウモロコシ原料のグレーンウイスキーが出来上がります。ところでアルコールが好きな黴が居て蒸溜棟の前の樹木は比較的その黴の影響で黒くなっていました。シロウト感覚からするとちょっと不思議なのですが。

蒸溜後の蒸留酒を樽に詰めて熟成貯蔵する貯蔵庫も見学していて、見学コースにあった貯蔵庫はそれほどギッチリあるわけではありませんでした。興味深かったのはウイスキー熟成に使った樽に麦焼酎を入れて熟成させて商品化したものの売れ行き好調とはいかなかったようで。個人的には飲んでみたい感があるものの人は焼酎を香りで選ぶわけでは無いのかなあ、と。

ドラマの影響やハイボールの需要もあって増産に努めてて週末にもかかわらず蒸留所は操業中で、しかし一昨年に出来た貯蔵庫を満杯にするにはまだ3年くらいかかる…とのことで、盛業は喜ばしいかぎりですが品薄感はしばらく続くのかも。

試飲ができる見学コースだったのでキーモルトと呼ばれるものを試飲をしています。左下から時計回りに軽めに泥炭で燻した麦芽を使ったもの、フルーティな酵母を使ったもの、(シェリーの香りがする)シェリー樽で貯蔵したもの、トウモロコシ原料の甘い香りのグレーンウィスキー、製品として売り出されてる宮城峡で、どれも甲乙つけがたいのですがスモーキーなウイスキーを作ろうとした竹鶴さんに申し訳ないのですが個人的な好みはグレーンウイスキーでした。でもって、この試飲でおのれが「どういう香りが良い」としているかが手に取るように理解できています。

でもなんですが。

仙山線の電車が頻発しているわけではなく所内のテイスティングバーで時間をつぶそうよということになり、そこで余市ウイスキーを試飲しました。もちろん大麦由来のものでその麦芽の甘さもあるのですがスモーキーさが悪くなく「これも良いな」と思ってしまっています。あははのは。

酒飲みの鼻と舌はあてにならないということで…って長々と書いてきたのに最後がそれじゃダメじゃん

マルス信州蒸溜所へ

諏訪湖から浜松に向かって天竜川が流れていて、そのうち長野県内で天竜川の流れるあたりの一部は伊那谷と呼ばれることがあります。伊那谷の宮田村というところには

マルス信州蒸溜所があります。マルス本坊酒造の商標で、ウィスキーの原酒の蒸溜所です。(山梨にワイナリーがあるので)マルスという名前は聞いたことはあっても残念ながら口にしたことは無く、興味があったので見学しています。

中央アルプスの(残念ながらガスってて見えませんでしたが)木曽駒の麓にもあたる工場のそばの川の石は真っ白でおそらく花崗岩と思われ、それと水がどう関係するのか不勉強ながらわからぬものの隣町に養命酒を筆頭に伊那谷に複数の酒蔵があることを勘案すると、伊那谷は酒造りに適した良い土地なのかも。

ウィスキーは(麦芽を使う)モルトウィスキーと、大雑把に書くとトウモロコシや小麦等と麦芽を併せてを使うグレーンウィスキーに分けられますが宮田村で作られてるのはモルトウィスキーのほうです。

モルトウィスキーは(二条大麦の)麦芽をまず粉砕して(その麦芽を粉砕する機械を眺めることが出来ます)

粉砕したものを温水と混ぜて攪拌し麦のでんぷん質が糖化して甘い麦汁になり(その撹拌の機械を眺めることが出来ます)

その麦汁に酵母を加えて発酵させると、糖がアルコール(と炭酸ガス)になります。この時点で度数は7%程度で、その発酵槽を眺めることが出来ます。(この時点で乳酸菌も関係してくるようなのですが)ステンレスとパイン材の2種の発酵槽がありました。おそらくそれぞれ違う味と香りに仕上がるのかも、なんすけど。

発酵したものを蒸溜釜で2度蒸留させます。蒸溜釜は蒸気で加熱しています。どちらが一回目に使う初溜釜でどちらが二回目に使う再溜釜で、釜の上部が接続している冷却器に差異がありました。初溜釜では度数20%、再溜釜では70%にもなり、できた原酒は加水の上樽などに詰めて貯蔵庫で(文学的表現を借りるならば)しばし眠りにつきます。

見学した23日は攪拌の機械と蒸留釜は確実に稼働してまして、糖化するときの麦芽の匂いなのか、それとも蒸留によって濃縮された発行した麦の匂いなのか、思わず「こういうところで死にたい」と口走ってしまう程度に恍惚としてくる香りに建物内は満ちていました。建物内は極めて清潔でなので原因は麦以外は考えにくいのですが。舌による味覚もさることながら香りが多幸感を増すはずで、私は麦の香りに良い意味で弱いのだな、と改めて自覚してます。

さぞかしいい香りに満ちてるのでは?と思われる貯蔵庫は残念ながら見学できず。

制限付きながらも試飲は有料でできるのですが自動車を運転してくれてる手前、ひとりだけ飲むほど極悪人にはなれません。もっとも、匂いだけはかいでいてハズレではないだろうと確信して、宮田村にお金を落としてきました。年末年始にあける予定です。

以下、くだらないことを。

天気はそれほど悪くはなかったのですが晩秋ということもあって中央アルプスから降りてくる風が寒く、隣の駒ヶ根にあるお寺を参拝ののち蕎麦屋に寄ったとき入店時の体温計測で自己ベストの32度6分を5回叩き出しています(さすがに3回目くらいからは2人して笑いだした)。その後店内には無事入れてて、お品書きを眺めながらお茶を頂いてたのですが、つい本心から口にしてしまったのが「あー生き返る」。鼻で感じたり皮膚で感じたりなどの体感の経験って、死ぬとか生き返るとか生死にかかわる言葉がぽろっと出てきませんかね。ないかもですが。

赤玉スイートワインもしくは赤割のこと

森見登美彦さんの「有頂天家族」(幻冬舎文庫・2010)という京都を舞台にした小説の中に弁天という登場人物が呑むものとして、赤割というお酒が出てきます。赤割は甘味果実酒(甘味ぶどう酒)の焼酎割で、存在を知ったのは物語に関係なく富山でのことで試しにやってみて、そのあと作品を読みました。

その作品の中で他にも赤玉先生という赤玉ポートワインをすする毎日を過ごす落ちぶれてしまった大天狗もでてきます。主人公は赤玉先生が残した赤玉ポートワインをすすって「哀しく甘い」という感想を持ちます。作品を読んだあとそれが気になって、それまで一度も舐めたことが無かったので「どんなものだろう」と赤割を作る際に必要な甘味ぶどう酒である(かつて赤玉ポートワインと称したサントリーの)赤玉スイートワインを舐め、哀しく甘いって表現に唸っています。ちゃんと書いておくと普通のワインより甘いです。よく酒が人をダメにすると云いますがたぶんそんなわけはなく、文学的表現にひっかかって好奇心につられてしまうようなダメなところを酒はあらわにするだけです。

謎をひとつ書いておくと作中では桃色と書いてあって、実在する赤玉スイーツワインを富山式に焼酎で割っただけでは赤いだけで桃色にはなりません。レモンかなにかを混ぜてるのか?寺町三条あたりではどういう作り方をしてるのか?そもそも京都では呑まれてるものなのか?とかいろいろ確認したいところですが、残念ながら読んだのが去秋で、緊急事態宣言は先月解除となりましたが恥ずかしながらタイミング的に現在忙しくて京都へはまだ行けずじまいで、確認できていません。作中で弁天さんはその(桃色の)赤割の入った杯をのみ干すのですが(「白い喉を鳴らして」と描写されてて)、確かに赤割は甘いワインが入っていますから口当たりは悪くないのでぐいぐいイケてしまいました。ちゃんと書いておくと酒が人をダメにすると云いますがやはりそんなわけはなく、「のみやすいから」ってのんでしまう人としてダメなところを酒はあらわにするだけです。

山梨県にはぶどう酒の焼酎割でぶう酎というのがあり、県内の工場で製品化されてて白がハイボールとして売り出されています。甘さ控えめで、もし見かけたらお買い上げいただきたいくらいで、けっこうイケます。

でもなんですが。

はてな今週のお題が「赤いもの」でそれを奇貨として書くと、山梨県産ぶう酎に肩入れしたいものの、フィクションにに引っ張られて去秋以降赤いお酒の赤割に妙に惹かれるものがあります。おでんにあうのは人体実験済みで、呑みすぎぬよう注意しながら今冬も赤割で口腔内とのどの消毒をするつもりです。

三郎丸蒸溜所へ

高岡もしくは新高岡から南の砺波方向へ(頻度はだいたい1時間に1本くらいの)城端線というのが走っていて、その城端線に油田という駅があります。その油田のほぼ駅前にあるのが

若鶴酒造で、誰もが知っている超大手の蔵ではありませんが

若鶴もしくは黒松若鶴の名で知られた日本酒を醸しています。正確に書けば「日本酒も」で、日本酒のほかに(誰もが知っているものではないものの)サンシャインウイスキーの名でウイスキーも60年以上製造していて、ウイスキーが嫌いではなくむしろ好きで好きゆえに製造現場に興味があるので蒸留所を見学してきました。正確に書くと三郎丸蒸留所といいます。

三郎丸蒸留所は大きくなく敷地内の日本酒の製造棟に比べても小ぶりです。もともとは戦後すぐの食糧難のコメ不足の時代に日本酒を醸す代わりにまず芋焼酎製造をこころみ、その後ウイスキーに参入した旨の説明を聞きながら、木造の建物は同じ富山県内の機械工具メーカーの不二越から譲り受けたものと知り、初期投資を抑えたかったのだろうなあ…と勝手にソロバンをはじいていました。

建物は古いものの設備そのものは投資したばかりなのか真新しいものが多かったです。でもって9月まで続いた仕込みのあとだったせいか建物内部に入った途端、「ああここで死にたいな」と思わず口にでちまうぐらいウイスキーの良い残り香がかなりありました(口にしたので当然笑われた)。木に匂いが染みついているのかもしれなくて、こういう時木造の建物っていいですね。

真新しい設備のひとつにみえた(でんぷん質を糖分にかえる)糖化タンクと

おそらく新品に近い、発酵させるための木桶というか木槽です。木製品は乳酸菌が住み着きやすくて、亀戸のくず餅屋さんも小麦でんぷんの発酵に木槽を使ってる説明を読んだことを思い出しました。非理系のシロウト丸出しの感想なのですが、木も乳酸菌も、どこにでもありそうなものが美味いものを作り出すことに関係するのってなんだか不思議っすね。

蒸留器というかポットスチルです。以前は一つしかなかったので洗浄など大変だったそうなのですが近年、設備を更新して増設していまは2つ(なので生産量も増えた)。焼酎のポットスチルはステンレス製、ウイスキーは銅の板金を加工して作ったりするのですが、三郎丸の場合は近所の高岡の梵鐘制作の技術を生かした錫と銅の合金の鋳造製でおそらくここだけのものです。酒器も錫のものがありますから案外お酒って錫製品ってあうのかも。設備の高寿命化というか耐用年数も伸ばすことができた関連からか中小企業の新技術開発の表彰の盾もそばに飾られていました。

いつものように話が横にすっ飛びます

ウイスキーは大麦から作るわけですが、大麦を水に浸してしばらくすると発芽しはじめ、そのときの酵素澱粉を糖分にかえる働きをします。発芽しはじめたところで加熱していったん乾燥させるのですが、

そのとき(↑写真のような)泥炭を使うことがあり、その泥炭の匂いがウイスキーのスモーキーさに関連してきます。三郎丸蒸留所では泥炭で加熱した発芽大麦を原材料を英国から輸入してて、どちらかというと癖があり、好き嫌いがわかれます。大きな声では言えませんが万人受けする味ではありません。誰からも好まれるような味にはせず、嫌いな人を追うことはしない方針である説明を伺ってて、クセのある方が好きなので個人的には好感が持てています。が、なんだろ焼酎を例にとると、クセのあるさつま白波より比較的香りにクセのない黒霧島が好まれる昨今の傾向からすると、クセを堅持する姿勢はカッコイイけどちょっとした賭けかなあ、と思いました。賭けが巧く当たればよいなあ、と。

見学ツアーに参加していて質疑オッケイだったので、最後にくだらない質問をしています。他社の蒸留所は甲斐駒や富士山の近くにあって三郎丸蒸留所は砺波平野のど真ん中で、どちらが適してるのですか?と訊くは一時の恥と思って訊いてます。

返答は個人的には意外なもので、ウイスキーの熟成の場合は寒暖差が重要で夏暑くて冬寒い方が良くて、砺波平野は北アルプスを越えてくるフェーン現象で夏暑くて冬は豪雪地帯で案外適地なのだとか。そして会社の一番近い駅は油田とかいて「アブラデン」と読むのですが由来は菜種油のアブラで、元々は周囲は菜の花畑だったという由来も同時に教えてもらっています。それでピンと来たのですが、菜の花は適度な湿気を好むのでそこそこ湿気もあるわけで、アブラデンで作ってる限りは天使がそれほど分け前を要求してこないわけで。

日本酒のほか梅酒、それにウイスキーの試飲コーナーと売店があります。梅酒は誰からも好まれる味でぐいぐい行けます。が、対比してウイスキーは(私は好きなのですが)、ストレートでゆくとちょっと人を選ぶかなあ、という気が。

いくらか酔っぱらいながら城端線に乗って帰京しています。こういう時、駅のそばだとありがたいです。高岡にはgo toを利用して行ったのですが、クーポンは若鶴の売店富山市内でウイスキーに化けました。いつくるかわからないけど東京に第三波が来たら、楽しみながら口腔内と喉をアルコール消毒するつもりです。

未知(の酒)との遭遇

たまに銀行から留守電が入ってることがあります。平日の昼間に家に居る高等遊民だと思われてるようなのですが、残念ながらそんなことはありません。どってことない一介の(勤務先は4階の)どこにでもいる平凡な目立たぬ会社員です。

ずいぶん昔に広島に仕事ではじめて行ったときどこかを観て帰るような余裕はいっさいなかったのですが、帰り際になんの気なしに「もし酒を買って帰るとするとなにが良いですか」ということを尋ねたことがあって、そのときに薦められたのが西条鶴という酒です。辛口だけど私には呑みやすくぐいぐいイケる酒で、次の機会に感想と教えてもらったことのお礼を述べたのですが(西条が灘や伏見に並ぶ酒どころであるのを後日知った)、以降、仕事でも仕事以外でもなんらかの機会に東京を脱出したら、時間に余裕があったらその土地で愛飲されてる酒を買うようになりました。買うといってもカバンの中にこっそり入れることができる程度のささやかなものです。開けるまではどんな酒なんだろうという想像するささやかな楽しみがあります。

はてなのお題を引っ張ると、家呑みは知らない酒を用意することで未知(の酒)との遭遇が可能で、ちょっとだけ冒険ができます。

 

静岡はメジャな酒どころではありません。が、侮れないところであると思っています。静岡のしずてつストアにあった安倍街道という本醸造酒で、週末にあけるつもりです。

富士山麓蒸溜所

お酒はお好きですか?といわれると'`ィ(´∀`と元気よく答える程度には好きであったりします。ウイスキ―を呑んでも重たく人生を語ったりはしません。どちらかというと陽気になるほうです(ただし饒舌になり説明がいくらか細かくなる)。最初は18くらいのころから(こら)ジンジャーエール割からはじめていまに至ります。以前はさして値段が高くないけどそこそこ楽しめたボストンクラブっていうのがあって(終売になってしまってるのですが)キリンがウイスキーを作っていること・御殿場にキリンの蒸溜所があるのは知っていて

でもって興味があったので御殿場の蒸溜所の見学へ行ってました。正確に書くと富士山麓蒸留所といいます。
すごくおおざっぱにいって

ウイスキーは左の大麦を原料とする英国のウイスキー(これをモルトウイスキーという)、右のトウモロコシなどを原料とする米国のウイスキー(グレーンウイスキー)があるんすが、説明を伺ってる限りどちらかというとキリンはグレーンウイスキーにこだわりがあるようで。

モルトウイスキーは右のポッドスチル(単式蒸留器)で2回蒸留しますが(ちょっとずつ度数を上げる)、

写真は連続式蒸留器の一部分なんすがグレーンウイスキーは連続式蒸留器で蒸留し、いっぺんに90度まで度数を上げることが出来ます。効率はだんぜん連続式蒸留器のほうが良いものの味はクリアで原料の風味はさして残りません。一般的にグレーンウイスキーモルトウイスキーの引き立て役という役回りがないわけではないのですが、蒸留所立ち上げのいちばん最初に(バーボンのある)米国からも技術を導入してて複数の基本設計の異なる連続式蒸留器があり、重厚なグレーンウイスキーもできるのだそうで。ただ残念ながら(ここらへん日本人の味覚の特殊性を考えさせられるのですが比較的クリアとされている)グレーンウイスキーのみの販売は日本ではそれほどなく、モルトウイスキーブレンドされて出荷されることが多かったりします。製法や設備は英国と米国を参考にしながらも、酵母のことを尋ねたら酵母は海外のものではなくキリンが持っているものをモルトウイスキーとグレーンウイスキーでつかいわけてるそうで、英国や米国とはまた違うウイスキーができることになります。

出来たウイスキーを樽詰めしたあと熟成させる熟成庫も見学したのですが天井がけっこう高く、相当な量の樽が眠ってるのがわかります。

というか、ほんとうっすらとした上品なバニラ臭があり暗い場所ですが不思議と「ここでなら死んでもいいな」「天国ってこんなところだったらいいな」と思える場所でした。おそらく酒飲みの発想です。

試飲もありました。左からマルチカラム(連続式)、ケトル(単式)、タブラー(連続式)という三種の蒸留器で作ったグレーンウイスキーをまず試飲したのですが、なんで販売しないんだろう、という程度にそれぞれにイケます。とくに右のタブラーのがいちばんバナナを思わせる果実臭があり、好みだったんすが。

そのほかに左2つ、モルトウイスキーブレンドされてる富士山麓樽熟成原酒50度というのと富士山麓シグニチャー(正札で5000円強!)というのも試飲したのですが、グレーンだけのウイスキーと比較して呑むとグレーンだけとは異なりとたんに複雑な味になるのが興味深かったです。(試飲したものが冷却濾過しないものであったせいもあるのですが)より香り高くなり酸味が増すというか。ともに50度あるのでストレートではあたりまえのこととして呑むと辛いのですが、シグニチャーのほうがいくらかスモーキーのような気がしました。ちなみに書いておくとおススメのひとつとして記憶に間違えなければウイスキーに氷を入れてマドラーで30回まわして1対3程度の比率で炭酸水を入れると濃いめのハイボールになる、とのことだったんですが、ハイボールだとぐいぐいいけてしまいそうで怖かったり。

製造現場で話を伺ってると興味深かったです。空きっ腹に少量とはいえ試飲すると完全にほろ酔い状態でした。えへへ。ウイスキーってほんと怖いです(まんじゅう怖い的な意味で)。

グランポレール勝沼ワイナリー

新宿から普通電車を乗り継いで2時間くらいのところに昔は勝沼、いまは勝沼ぶどう郷という駅があります。臨時で甲府行きの特急などがとまることがありますが基本は普通電車しか止まりません。

でもってぶどう郷って名前があるくらいなので勝沼はぶどうの産地でもあると同時にワイナリーの多いところです。週末、収穫時期直前のぶどう畑の中を歩きながらワイナリー見学に行っていました。

グランポレール勝沼ワイナリーというのが勝沼の西にあります。以前は規模の大きめな醸造所だったのですけど国産ぶどうから作るプレミアムワインのみを少量生産するように戦略を変えていまにいたります。産地は勝沼に限らず、北海道の余市長野市安曇野の池田町、岡山から取り寄せていて「ほんとはぶどう畑のそばにワイナリーがあるのがいちばんいいのですが、大人の事情で」と説明がありました(製造現場の方が説明役を兼ねていた)。隣県の安曇野や長野は数時間で着くくらい近いのでトラックですが余市からは鉄道コンテナに生のブドウと大量のドライアイスを放り込んで運び込むそうで、途中で貨物列車がなんらかの事情で遅れたらと考えると担当の方はさそかし胃が痛くなりそうだな、と。
仕込みシーズンの前なので製造現場も見学させてもらえました。

ぶどうを選果(腐敗したものなどを取り除く)するためのコンベヤであるとか

果皮を傷つけて果汁を出やすくする破砕機であるとか

ちょっとぼけてしまったのですが、圧搾する機械であるとかをガラス越しでなく直接見学できました。圧搾の仕組みを書いておくと上のほうの開いてるところから破砕した白ワイン用ぶどうとか(白ワインは圧搾してからタンクで発酵させる)、(破砕したあとタンクでいったん発酵した)赤ワインの前の前の段階やつを放り込み、機械の中にバルーンがあってそれを膨らませることで圧搾し、液体が下にでてくるようになっています。

赤ワイン用のタンクです。上部に蓋があり、破砕したぶどうをタンク内で発酵させるのですが人力でタンク内の赤ワインの材料をひっかきまわす必要があってそいつがやはりけっこう重労働なのだそうで。良いワインを作るためには機械化できない分野があるのだな、と(コストを考えちまうかなしい性で)値段を含めて妙に腑に落ちました。問わず語りで製造過程で製品についてのさじ加減というかGOサインを出すのは官能検査について研修を受けた現場の人が行ってることも教えていただきました。あたりまえのことかもしれませんが人にしかできないこともまだあるんすね。

(余計な菌を排除する方向で)製造現場はかなり清潔に保たれてます。怒られそうなことを書くと知ってる病院の手術室を想起しました。手術室になくてタンク室にあるのがパトライトです。発酵がありますから二酸化炭素が発生し、タンクのある部屋は酸素欠乏状態になりやすく酸素が不足するとセンサーで感知しパトランプがクルクル回るようになっています。やはり問わず語りでおっしゃってたのですが、産地からどれくらいのブドウがいつ入荷するはある程度わかるものの、しかし事前の通告より多めに入荷することもあるようで、そうなると限りのあるタンクをどうやって運用するかが悩みどころなのだとか。
ワイナリーの奥にぶどうの見本畑がありいくつか種類が植えてあったんすが

右にあるのが余市のケルナーで、左というか真ん中にあるのが長野市シャルドネです。ぶどう棚をつかわず垣根のように一列に並べてあるので垣根式ともいわれます。ぶどうはそもそも砂礫地や扇状地とか水はけのよい土地に植えられてはいるもののぶどうが生育する春から秋にかけて梅雨と台風が必ずきちまい、雨のしずくが地面に落ちてそれが跳ね返ってぶどうにカビ等がつくのを防ぐため背の高いぶどう棚をつかうことが一般的ですが、陽当たりはよくありません。欧州系のぶどうは陽当たりを好むものがあり、垣根式は陽当たりはいいので天候に恵まれさえすれば良いものができるので欧州同様に垣根式で栽培しているものもあります。

余市に植えてあるケルナーというドイツ原産の木なんすけど、植え方がわざと斜めにしてあります。北海道に梅雨はないと知りつつもはねかえりの雨のしずくがつくかもしれず不思議に思っていたら、冬になると余市はマイナス15度になりそうなるとブドウの木の細胞が死に機能しなくなるのでその対策で、幹がよりあたたかい雪の中に埋もれるようにななめにしてあるのだとか。そもそもマイナス15度という中では雪の中のほうが温かい、というのが東京の人間には想像つかないのですがデリケートな作物なのだなとあらためて思い知った次第。

ぶどう棚式で植わっていた甲斐ノワールという山梨県が開発した生食用でないワイン用のぶどうです。

とって食べていいですよ、と許可が出たので食べたのですが、野性味があるというかあとから酸味が来るちょっとくせになるでもぶどうの味がするぶどうでした(ぶどうの味がするのはあたりまえなんすが)。でもって試飲コーナーで甲斐ノアールをつかったワインが試飲できたので「あの酸っぱいブドウがどういうワインになるんだろう」と期待したのですが、想像したほど野性味があるわけでもなく酸っぱくもなくバランスの良い上品な赤に仕上がってました。サッポロの技術の優秀さに唸ったのですが、酸味が強いのが好きなので残念だったんすが。さすがに技術者の方の前では云いだせず。

90分の見学だったのですが、とても濃い内容でした。試飲したワインも甲乙つけがたいものばかりです。ただ空きっ腹に少量とはいえ6種ほど試飲すると完全にほろ酔い状態でした。えへへ。美味しいワインって怖いです(まんじゅう怖い的な意味で)。